根っからの負けず嫌い、食事管理も徹底
「常に全力」という言葉を大切に、勝利への異常な執念を持つ。「勝つことが大好き。全てのことで勝ちたい」。根っからの負けず嫌いで、子供相手のテレビゲームやじゃんけんでも勝ちにこだわる。柔道では絶対王者として、稽古でも試合を想定して「1度も背中を畳につけない」と決めている。
国際大会や合宿には、専属コーチやトレーナーらを帯同させ「チームリネール」となって世界中を駆け回る。合宿では乱取りの他、ジュニア時代から指導を受ける体重60キロのシャンビリーコーチと素早い組み手や寝技強化に励み、それ以外は独自の筋力トレーニングに時間を費やす。
137キロをベスト体重とするが、16年リオデジャネイロ五輪後の長期休養でケーキを食べ過ぎて165キロまで増量。それ以降は、栄養士に徹底した食事管理を受け、肉体改造に取り組んでいる。
年齢を重ね、柔道との向き合い方も変化した。「頭脳が大きな武器になっている。体力が衰えても周りは『強い』と評価するが、自分では『強くない』と感じている。今は常に勝つための最善策を逆算して考え、これまで以上の稽古に励んでいる」。
東京五輪では、個人戦の他、男女混合団体が初実施される。柔道大国フランスは決勝で日本と対戦する可能性がある。「金メダルを2個取る大きなチャンス。東京で世界で一番きれいな景色を見るよ」。
さらに、その先には24年パリ五輪がある。母国での大舞台を競技人生の集大成と位置づけ、「(五輪3連覇の)野村忠宏さんを超えて、五輪4連覇を狙いたい。柔道界だけでなく、スポーツ界のシンボルになりたいんだ」と壮大な夢を描く。前人未到の偉業に向け、30歳の絶対王者は東京五輪を通過点にするのか。それとも、競技発祥国の日本が意地を見せるか。答えは半年後、柔道の聖地、日本武道館で出る。
○…リネールは、意外な顔を持つ。競技引退後を考え、17歳でパリを拠点とするスポーツビジネス会社を起業。スポーツマーケティングを学ぶ学校も開校し、経営者としても活躍する。欧州での大会では、時短のためヘリコプターをチャーター。柔道を「最優先」とするが、「ボス(=社長)とパパの仕事もあるから忙しいよ」。フランスでは、最も影響力のあるスポーツ選手で1位に輝いたこともあり、レキップ紙が昨年4月1日のエープリルフールに「リネール柔道引退。ラグビーに転向」と報道して、大きな反響を呼んだ。
○…「打倒リネール」を掲げる男子100キロ超級は近年、めまぐるしく変化している。リオ五輪後のルール改正もあり、動けて技も切れる「スプリンター系」が優位となっている。18年世界王者のトゥシシビリ(ジョージア)や100キロ級から転向した19年世界王者のクルパレク(チェコ)らが台頭。そこにリオ五輪銀メダルの原沢久喜(百五銀行)が加わり、10年間負けなしの絶対王者も五輪3連覇へ油断出来ない状況だ。
◆テディ・リネール 1989年4月7日、フランス・グアドループ生まれ。パリで育ち、5歳で柔道を始める。07年世界選手権100キロ超級で、18歳5カ月の男子史上最年少優勝記録を樹立。08年北京五輪銅メダル。12年ロンドン、16年リオ五輪金メダル。国際柔道連盟(IJF)アスリート委員会委員長。得意技は大外刈り、内股。尊敬する人は井上康生。愛称はテディベア。好きな食べ物はクスクス。家族構成は妻、子供2人。203センチ、150キロ。
(2020年1月28日、ニッカンスポーツ・コム掲載)