<第92回選抜高校野球:選考委員会>◇24日◇大阪市

北の大地から“なつぞら旋風”を起こす。昨年のNHK連続テレビ小説「なつぞら」のモデルとなった帯広農(北海道)が、21世紀枠でセンバツに初選出された。

昨秋は北海道大会4強で甲子園出場は82年夏以来38年ぶり。ヒロインを演じた広瀬すずにあやかり、キャッチコピーを「すず野球」と定め、聖地1勝を目指す。

21世紀枠でのセンバツ出場が決まり、笑顔の帯広農ナイン(撮影・佐藤翔太)
21世紀枠でのセンバツ出場が決まり、笑顔の帯広農ナイン(撮影・佐藤翔太)

モ~烈にうれしかった。酪農科学科を設ける帯広農らしく、自作の乳牛の雪像と喜びを分かち合った。23日に前田康晴監督(43)が「選ばれなくても準備だけはしっかりしよう」とグラウンドの雪を集め、耳には「甲子園」「540(甲子園)」と2つの札つけ、黒い模様もつけた。念願かないエースで主将の井村塁(2年)は、優しく牛の背をなでながら「本当にうれしい。しっかり練習して、恥ずかしくないプレーをしたい」と意気込んだ。

1週間前には、20年のキャッチコピーを考案した。その名も「すず野球」だ。「す」は「スピード」「スマイル」「素直さ」、「ず」は「頭脳的に」「ずばぬけた物を持とう」の頭文字から取った。野球の練習だけでなく、奮闘を全国に知ってもらうため工夫した。井村は「甲子園でもっと多くの人に僕たちの野球を見てもらおうと、分かりやすいネーミングにしたかった」と説明した。

広瀬すずばりの“きらきらヒロイン”も加わった。昨年12月に戸草心里(ここり)マネジャー(1年)が加入。卓球部で公式戦でなかなか勝てずに苦悩していた戸草さんは「卓球は中途半端な状況だったので、何か力になりたいと飛び込んだ」という。部員の体重増のため、補食の調理を担っており、4番の前田愛都一塁手(2年)は「女子がつくるご飯は、より気持ちが上がる」と目を輝かせた。

21世紀枠に選ばれナインに囲まれるマネージャーの戸草心里さん(中央)(撮影・佐藤翔太)
21世紀枠に選ばれナインに囲まれるマネージャーの戸草心里さん(中央)(撮影・佐藤翔太)

漫画家・荒川弘氏の母校で、同氏原作の漫画「銀の匙 Silver Spoon」の舞台。農業高校の青春を描いたマンガの世界同様、午前5時半に起きる生徒もおり、豚の出産があれば夜中まで豚舎に残り世話をする。所属学科に応じた農業実習があるため、平日は全体練習できないなど、環境面のハンディを乗り越えつかんだ甲子園切符。乳を搾り、干し草を運び、凍った大地を耕しながら培ったパワーを聖地で爆発させる。【永野高輔】

◆帯広農 1920年(大9)に十勝農業学校として創立された道立校。生徒数は585人(女子208人)。野球部は1926年(昭元)創部。現部員は1、2年生で37人(女子マネジャー1人)。甲子園は82年夏に出場。主な卒業生は08年北京、12年ロンドン両五輪の自転車マウンテンバイク代表の山本幸平、16年リオデジャネイロ五輪女子7人制ラグビー代表の桑井亜乃ら。所在地は帯広市稲田町西1線9番地。二木浩志校長。

◆帯広農の前回甲子園 82年夏に出場。初戦の2回戦で益田(島根)と対戦し、2-5で敗れた。この試合では前代未聞の「1イニング4アウト事件」があった。9回表、益田の攻撃は2死一塁から二飛で3アウトだったが、スコアボード表示が2アウトのまま続行。次打者の三ゴロでチェンジになった。試合後、大会本部が陳謝し、4アウト目は記録から抹消された。

◆帯広農OGでリオデジャネイロ五輪ラグビー7人制女子日本代表の桑井亜乃(30=アルカス熊谷) 今は農業高校の時代ですね。大舞台は出ることへの喜びを感じて、自分がやってきたことをみなさんに見てもらう気持ちで。私も東京五輪出場へまだチャンスはあるので、焦らず自分を信じて頑張ろうと思います。

◆北海道の21世紀枠選出 13年遠軽以来、7年ぶり4校目。21世紀枠がスタートして2年目の02年、鵡川が初めて選ばれた。初戦で三木(兵庫)を下し2回戦に進出。12年には女満別、13年には遠軽と北見地区から2年連続で選出された。遠軽は、史上初の21世紀枠対決となった1回戦、いわき海星(福島)戦で勝利を挙げた。

(2020年1月25日付日刊スポーツ紙面掲載)