出発前日、「腸内環境について、詳しく調べてもらえますか」とお願いされた。「僕は人よりたくさんタンパク質をとるので、おそらく腸内環境が悪いんじゃないかなと。良くするにはどうすればいいか」と自らで感じ、質問したのだった。

 同社は乳酸菌の研究に強く、大前氏は早速、研究者から約2時間の講義を受け、本や資料で勉強した。帰国後、大谷に乳酸菌をメインに説明。普通は「わかりました」で終わるが、大谷は自ら勉強した内容を質問に加えた。

 大谷 オリゴ糖とか、イヌリン(糖類の一種)の方がいいんじゃないですか?

 大前氏は「おっ」と差し込まれた。「乳酸菌とかは腸の中で存在します。糖類はそれを増やす働きがあるから、そっちの方がいいんじゃないですか?」と思ったのだろう。意識の高さを物語る出来事だった。

 歴史を変える二刀流を成し遂げた思考は、食にも反映された。2つの質問を受けた同じ年、大前氏は「自分が必要な物を全部サプリメントで摂取すればどうなりますか?」と聞かれた。現状では健康を保証できず、結論的には「NO」だったが、大前氏はその思考に驚かされた。

プロの中のプロ、進化し続ける

 故障で苦しんだ17年には「僕の基礎代謝量はどれくらいですか?」と質問された。過去に担当した選手のデータを提示。リハビリ中の体重管理に役立てた。大前氏は「多くの選手は『何がいいですか?』ですが、大谷選手の場合は、知識も含めて自分で全てを知りたいタイプ。記憶力もすごく良くて、『この前はこう言ってませんでした?』と突っ込まれる時もあります」と苦笑した。

 今年1月、大前氏はエンゼルスの球団関係者と面談した。「翔平は何が好きなんだ? お茶は好きか? うどんは好きか?」と質問攻めされた。大谷に伝えると、「特別扱いはしてほしくないですと。自分でできますし、そのために知識もつけてきましたから」と言われ、球団側に伝えた。

 大前氏は「プロの中のプロ。私自身も勉強になります」と大谷を語った。「大谷選手の考え方はその年に100%でできたことを、その次の年は80%でできるようにすること。少しずつでも、年々、進化するのが彼のスタイルなんだと感じます」。進化し続ける大谷だから、メジャーでも新たな歴史を刻み続けるのだろう。【久保賢吾】

(2018年8月5日付日刊スポーツ紙面掲載)