エネルギー不足改善を優先

 産婦人科医である百枝副院長は、三主徴のうち無月経の治療にあたることが多いが、10代選手の体を考え、ホルモン療法ではなく、「エネルギー不足の改善」を優先している。「エストロゲンを投与することで骨粗しょう症を予防できることは分かっていますが、これから骨が作られる思春期の女性に投与していいのかについて、はっきりとしたエビデンス(医学的な根拠)がありません。まずは摂取エネルギー量(食事量)と消費エネルギー量(運動量)のバランスを正常化させ、自前のエストロゲンを出す方針を立てます」。

「ジュニア期から、エネルギー不足にならないようにすることが大切」と語る聖路加国際病院の百枝幹雄副院長
「ジュニア期から、エネルギー不足にならないようにすることが大切」と語る聖路加国際病院の百枝幹雄副院長

 つまり、即効性のある治療法はない。また、以下のことから治療自体が難しいのも現状だ。

陸上・長距離のように競技・種目によっては、体重増を拒否する選手がおり、思うように治療が進まない。

アメリカスポーツ医学会は、食事改善などを1年実施しても月経が再開しない16歳以上の選手に限って、ホルモン療法を行っても良いとのガイドラインを設けているが、国内ではコンセンサスが得られていない。

中高年で有効とされる骨を強くする薬もあるが、若い女性への安全性が確保されていなかったり、ドーピング禁止物質に指定されているなどして使用できない。

 百枝副院長は「だからこそ、ジュニア期からの予防が重要と熱く語った。

ジュニア期からの予防が重要

 日本の女性アスリート人口は約250万人と言われている。そのうち国立科学スポーツセンター(JISS)で最先端のサポートを受けられるのはわずか数百人。中学生92万人、高校生44万人(中体連、高体連登録者数)、約100万人の大学生・社会人の多くは、医科学根拠に乏しい指導により、三主徴をはじめとするさまざまな健康問題に悩み、苦しんでいる可能性がある。

 百枝副院長は、日本医師会や日本産婦人科学会らが構成する「女性アスリート健康支援委員会」の一員として、各地で啓発・情報提供しながら、アスリートが治療しやすく、コーチらが指導しやすい環境作りを整えている。「今後も、スポーツ指導者、内科医、産婦人科医が連携して、各地域の女子アスリートをサポートしていきたい」と話した。【青木美帆】

※女性アスリート健康支援委員会では、同委員会の講習会を受講し、スポーツの知識を備えた産婦人科医を都道府県別に掲載している。婦人科系の不調があるアスリートは一度目を通してほしい。(http://f-athletes.jp/doctor/