2001年から10年間にわたって米歌手マドンナ(59)のパーソナル・シェフを務めた西邨(にしむら)マユミさん(61)が、スーパースターのこだわりを紹介する。かねて提唱してきた玄米や野菜を基本とする食事法「マクロビオティック」が縁で、その食生活を支えることになった。世界の歌姫は「食」に関して知識が豊富で、とにかく勉強熱心だったという。

マクロビのプライベートシェフ

 西邨さんは、米国でマクロビオティック(以下マクロビ)を学んだ後、がん患者や子どものために食事を作った経験を生かし、時代のニーズに合ったマクロビのあり方を提唱、実践してきた。「病気にならないなどその効果や発揮できる方法を、たくさんの人に知ってもらえるには、影響力があり、活動的な人に携わり、こういう食事をしたいと積極的に思っている方に作ってあげたいと思っていました」。

歌手マドンナ一家の専属シェフなど多くのセレブリティーに食事を提供した経験を生かし、活躍する西邨マユミさん(撮影・小沢裕)
歌手マドンナ一家の専属シェフなど多くのセレブリティーに食事を提供した経験を生かし、活躍する西邨マユミさん(撮影・小沢裕)

 そう願うようになって1年が過ぎた頃、朗報が舞い込んだ。友人を介して、マドンナがマクロビのプライベートシェフを募集していると知った。米女優グウィネス・パルトロウ(45)がマクロビのプライベートシェフを抱えていると知り、自分の子どもたちの料理を作ってくれるシェフを探していた。履歴書を送ると、1週間のテストをさせて欲しいと返事があり、米国内の自宅に行った。

 これを終えると、今度は仕事で滞在するドイツに来てくれと頼まれた。その後、ツアーや映画撮影などに同行。信頼関係も深まり、転居先のロンドンの自宅に来て欲しいと言われた。マドンナ側から「キッチンも直しているから好きなようにして欲しい」と言われた。マドンナ一家の食生活を本格的に支える生活が始まった。「オーラはすごかったです。最初の1年は緊張の連続でした」。

疑問すぐに質問、ストイック

 「食」に関して、とてもストイックだったという。「すごく真面目で勉強家。本を読んで、なぜこの食べ物が体にいいのかを理解している。疑問があれば、何でも聞いてくる。『どうして今日はこの料理なのか』『この料理の何が体にいいのか』などと質問されることもよくありました」。

マドンナ(2016年2月15日撮影)
マドンナ(2016年2月15日撮影)

玄米、キヌア、大豆製品

 好まれてよく作った料理は、玄米のアボカド巻きやキヌアのサラダなど。他には、塩と梅干しで味つけした玄米のおかゆ、きんぴらゴボウのサラダ仕立て、レンズ豆のスープ、小豆とカボチャのスープ、野菜入りのみそ汁、豆腐のタルタルソースを添えたひよこ豆のハンバーグなどを出した。食事量は少なく「カロリーが足りないのではと思い、たくさん乗せたら『マユミ、私を太らせようとしているの?』と怒られました。たくさん乗せた時は必ず残していました。自分の量を分かっていらした」。

 それまで使ってこなかったスパイスやハーブも取り入れた。「続けなくては体が変わっていかないので、続けていただくことが一番大事ですから」と「マドンナのためのマクロビオティック」を作り上げていった。マクロビでは肉は使わないが、ある時「夫が肉が食べたいと言っているから、何とかして」と言われた。肉の扱い方を知らなかったが「夫に喜んでもらいたいという気持ちは分かります。私はマドンナに雇われているわけですから、はい、何とかしますと。本をいただいて自分で勉強しました」。

アルコールも甘いものも節制

 アルコールは、最初に会った頃は来客があると、ワインをグラス1杯ほど飲む時もあったが「どんどん減っていきました。普段、そんなにお酒を飲むという感じではないです」。クッキーやケーキなど菓子も出した。「私、甘いものだけで生きていけるなら、それだけでいい」と言われたこともあった。「甘い物がすごく好きだと思います。彼女も分かっているので、好きだけど、そこは節制することができる方でした」。

 結局10年間、食生活を支えた。「彼女のためのマクロビオティックとは、と考えていく状態でやらせてもらい、寛大に見てくださった。本当にラッキーでした」。やめる時、エールをもらった。「これから日本でこういうことをやりたいんだと言ったら『私のところで仕事をしていたということを、うまく使ってちゃんとやりなさいよ』と言われました」。戻ってきて欲しいというラブコールは今も届く。「『日本の仕事はやめたの? まだ帰ってこないの』と。やるとなると100%居て欲しいという人なので、ありがたいですが、お断りしています」。

 時代に合わせ、働く女性も無理なく続けられるマクロビを広めようと、世界を飛び回っている。「日本こそ健康大国として世界に売り出すべき。先進国は医療費でつぶれるといわれていますが、食事を変えていくことで、みんなが病気にならなければ、医療費がかからない。ニンニクやスパイスを少し使うプチマクロもある。とにかく長く続けてもらいたい。ずっと楽しくやっていくんだと思ってもらえるような食事を提供しているつもりでいます」。【近藤由美子】

西邨(にしむら)マユミ

1956年(昭31)12月26日、愛知県生まれ。82年単身渡米、マクロビオティックの世界的権威、久司道夫氏に師事。その後、米マサチューセッツ州クシインスティテュートベケット校料理主任及び料理講師に就任。マドンナ一家のパーソナルシェフを務めたほか、ブラッド・ピット、ミランダ・カー、スティング、ガイ・リッチー、ゴア元副大統領ら多くのセレブに食事を提供。血液型B。

マクロビオティック

食文化研究家の桜沢如一氏が1930年代に提唱。基本的に砂糖、乳製品、卵、肉類は取らない(西邨さんは精製された白砂糖を避け、てんさい糖など使用)。栄養のバランスを重視し、健康を維持するもので長寿法ともいわれる。玄米、菜食など日本の伝統食が基礎となる。マドンナの他、トム・クルーズ、各国スーパーモデルが健康と美容のため実践しているとされる。

(2018年2月12日付日刊スポーツ紙面掲載)