「秋の味覚」で浮かぶものは? 「鮭(さけ)」と「きのこ」といえば、どちらも秋の味覚の代表格。きのこ大好き女子の集まり「きのこ女子大キャンパスプロジェクト」が、大相撲芝田山親方(元横綱大乃国)の協力で、長野県のJA中野市提供のきのこと、水揚げされたばかりの北海道産の秋鮭をメインにした「特製きのこと秋鮭のみそちゃんこ鍋」づくりを体験した。

「スイーツ親方」元横綱大乃国が協力

 秋鮭のピンク、きのこの白と茶、水菜やねぎなど野菜の緑、さつまいもの黄色…。彩り鮮やかな「特製ちゃんこ鍋」が、卓上にドーンとすえられた。

芝田山部屋特製きのこと秋鮭のみそちゃんこ鍋
芝田山部屋特製きのこと秋鮭のみそちゃんこ鍋

 若い衆が見栄えを整えていると、そのおぼつかない手つきを見た芝田山親方。「そういうのは『どうぞ、食べてください』って、鍋が訴えてくるようにするんだ」と、自分でハシを手に鍋の前に。丁寧に食材を並べて完成。見た目もきれいなちゃんこ鍋に、きのこ女子たちもうっとり見つめた。

若龍勢が20人前調理

 今回「きのこ女子大キャンパスプロジェクト」のメンバー3人とスタッフ2人が、秋の味覚ふんだんのちゃんこ鍋を作ろう(食べよう)と企画。「スイーツ親方」としても知られる、芝田山親方にお願いして一緒に作ることになった。

 食材はきのこと鮭がメイン。九州場所前の巡業に出た力士もいて、ちゃんこ場を仕切るのは三段目若龍勢。名古屋場所でのアキレスけん断裂もあって稽古はまだできず、1人で厨房(ちゅうぼう)に立っていた。福岡県出身で「作ったことないんですけど、石狩鍋みたいにすればいいと思う」と、食材チェックを始めた。

ちゃんこ鍋を作る若龍勢
ちゃんこ鍋を作る若龍勢

 前夜送られてきた北海道産の秋鮭は、着いてすぐに内臓を取り出し、この日の朝に頭を落として2枚におろした。JA中野市からは段ボールいっぱいのきのこ。JA中野市が日本一の生産量を誇るえのきたけと、ぶなしめじにエリンギ。「あ、干しえのきだ。えのき氷もありますね」。えのき氷はペースト状にしたえのきたけを凍らせたもの。「きのこは細胞壁が硬いんで、干したり、ペーストにしたら体に吸収されやすいんです」。なかなかきのこに詳しいようだ。

 大鍋にお湯を沸かし始め、稽古を見学していたきのこ女子の面々が厨房(ちゅうぼう)で若龍勢の手伝いに入る。まず渡されたのは白菜1玉。「こんなの、切ったことないです」と、ちょっと危なっかしい包丁さばきながら、必死に「解体」する。きのこや野菜を若龍勢の指示で切りながら「いつも1人で作ってるんですか」「佐藤浩市に似てるって言われません?」「何人前作るんですか」など、和気あいあいとした雰囲気で調理が進む。けいこを終えた序二段の浜田山も合流。冷蔵庫から取り出した鮭の半身2枚をブツ切りにしていく。

 若龍勢は「いいだしが出れば」と、大鍋に鮭の頭を入れ、日本酒をドボドボと注ぐ。「量ですか? 適当です」。さすが相撲部屋。続いて鍋にも使いやすい、だし入りのマルコメのみそ「料亭の味」をカップ半分ほど投入。スープが完成した。きのこ女子が切ったきのこ、野菜、鮭の切り身などを入れて煮込む。

料理も相撲も感性が大事

 そこで頭をひねる若龍勢。実は親方から、鍋のイメージ写真が送られていた。「見た目とか難しいです」といいながら、写真を参考に具材を配置。ほぼ親方のイメージ通りに出来上がった。ただ、食卓に運ぶ最中、鍋が大きすぎて具材が下に沈む。なんせ、20人前はゆうにある。そこで、浜田山が具材を追加しながら整えていたところに、芝田山親方登場! となった。

 「料理も相撲も感性が大事。ねぎの置き方、えのきの置き方、いいものを作ろうという気持ちを持たないと」と芝田山親方。急きょ揚げた干しえのきのかき揚げ、鮭のマリネ、きのこたっぷり野菜炒め、ナポリタンスパゲティなどが食卓に並んだ。芝田山親方を囲んだきのこ女子は「いただきます」。新鮮な鮭ときのこ、秋のごちそうでした。

芝田山親方、スイーツ巡業で2000種類制覇
芝田山親方

 芝田山親方を「スイーツ親方」としてご存じの方も多いだろう。テレビ番組などで全国のスイーツを食べ歩き、全国700~800店ほどの資料はすべて口にしたものだけだ。「1店で2、3種類食べるので2000種類ぐらい食べたかなあ」と笑う。スイーツに関する著書も刊行している。「農業が盛んで、お菓子でも有名な十勝(北海道芽室町出身)で育ったのがつながっている」という。

 第62代横綱大乃国といえば、7月に急逝した横綱千代の富士との「昭和最後の一番」が今でも語り草。1988年(昭63)九州場所千秋楽、当時53連勝中と圧倒的な強さで、双葉山の69連勝の記録更新を目指していた千代の富士を、結びの一番で破り、名を上げた。弟子育成については「辛抱、努力、根気、何事にもまじめに取り組むこと」という。現役時代は210キロを超えていた体重も、いまは150キロ台で「健康診断でも全く問題なし」。これからも「スイーツ巡業」を続けそうだ。

住宅街に位置する芝田山部屋。玄関には盛り塩が置かれていた
住宅街に位置する芝田山部屋。玄関には盛り塩が置かれていた

芝田山部屋

 第62代横綱大乃国が1991年(平3)名古屋場所限りで引退し、年寄大乃国を襲名して放駒部屋付き親方となり、93年春場所後に年寄芝田山を襲名。99年6月に放駒部屋から独立して芝田山部屋を創設した。現在は9月の秋場所まで十両だった若乃島を筆頭に、力士13人のほか、若者頭、行司、呼び出し2人、床山が所属している。所在地は東京都杉並区高井戸東2の26の9。

(2016年11月1日付日刊スポーツ紙面掲載)