<仙台育英・郷古武部長(後編)>
昨年の夏の甲子園で、佐藤世那投手(オリックス)平沢大河内野手(ロッテ)らを擁し、準優勝した仙台育英(宮城)。関西に比べて涼しい東北育ちの選手たちが、酷暑の甲子園で長期間、体力を落とさずに乗り切ることができたのは、ある秘密があった。
前回のコラム(「前編:仙台育英の郷古部長はプロ顔負け料理名人、相手校へ最高のおもてなし」)で、仙台育英にはプロ顔負けの料理の腕前を持つ郷古武部長がいるとお伝えしたが、その郷古部長が作る韓国風ネギだれ「パジャン」が、大会期間中の選手を支える原動力になっていたという。
他校の監督からは、よくこんな話を聞く。甲子園で勝ち進むとホテルでの滞在期間が長くなり、夏の暑さ、普段と比べて短い練習時間、毎日ほぼ変わらない食事で選手たちの食欲が減り、体重の管理が難しくなる、と。
しかし、昨年の仙台育英の選手たちからは、食欲が落ちたという話は一度も聞かなかった。その理由を、郷古部長は「ホテルの許可をいただいて、パジャンを調理して出していたんです」と明かした。
ご飯が進む辛いがクセになる味
パジャンは火を使わずに作れるので、包丁とまな板をホテルの部屋に持ち込み、夜に作って朝の食卓に並べた。辛いが、クセになる。次第に汗が噴き出してきて、体が熱くなる。選手はパジャンをかけたご飯をしっかり食べ、熱い夏を万全の体調で乗り切った。
「パジャンはニラとネギ。整腸作用もありスタミナがつきます。それに、ゴマ、唐辛子で発汗作用、ニンニク、ゴマ油と、体にいいものがたくさん入っています」(郷古部長)。
毎回、郷古部長はこれを選手用に作ってきたが、昨年のチームはとくに減りが早く、3日に2回、約900ミリリットルのボトルに2~3本作ったという。
「これでスタミナがついて、強力打線に一役買っていたかも。パジャンは徐々に効いてくる。去年の打線も一緒。後半に強かった」と郷古部長は笑う。そういえば、東海大相模(神奈川)との決勝戦では、3-6で迎えた6回に3点を挙げて同点に追いつく粘り強さを見せていた。
大会を勝ち抜くためには体調管理が大切。食事の重要性をあらためて感じ、郷古部長の役割の大きさを実感した。【保坂淑子】
■パジャンの作り方
<材料3~4人分>
万能ネギ 1/2束
ニラ 1/2束
長ネギ 1/2本
粉唐辛子 大さじ1
醤油 3/4カップ(135cc)
ゴマ油 大さじ2
おろしニンニク 大さじ2(チューブも可)
すりゴマ 大さじ2
<作り方>
(1)万能ネギ、ニラは根本を切り落とし、2㎝の長さに切り、大きめの保存容器に入れる
(2)長ネギをみじん切りにし、容器に入れる
(3)すりゴマを入れる
(4)粉唐辛子を入れる
粉唐辛子は荒く引いたものと、細かく引いたものの2種類を入れると味が増す。なければ青唐辛子、赤唐辛子各2本をみじん切りにする。
(5)醤油を入れる
(6)おろしニンニクを入れる
(7)ゴマ油を入れる
(8)すべてを混ぜて完成
※辛い場合は、醤油の量で調整してください。最初はネギやニラが生っぽいですが、徐々に馴染んできます。冷蔵庫での保存は約1週間。ご飯はもちろん、お豆腐、揚げ物の上にかけてもOK。調味料として炒め物の味付けにも使えます。
独特のにおい成分アリシンを持つネギ、ニラやニンニクは、疲労回復・スタミナアップなどに効果があります。また、唐辛子の辛みで食欲増進作用もあり、食欲が落ちる夏にはとても良いアクセントとなったでしょう。発汗作用もあるので、体が冷えるこれからの季節にも、代謝を高める食材としておすすめです。
フリーライター、エディター。日刊スポーツ出版社刊「プロ野球ai」デスク、「輝け甲子園の星」の記者を務める。「輝け甲子園の星」では“ヨシネー”の愛称で連載を持つ。「ヨシネーのひとりごと」(ニッカンスポーツコム)も連載中。
※2017年第89回選抜高校野球出場