「春日野部屋」と刻まれた特製の鍋で作られた肉だんご塩ちゃんこ鍋
「春日野部屋」と刻まれた特製の鍋で作られた肉だんご塩ちゃんこ鍋

 梅雨、そして夏。力士にとっては過酷な季節に突入している。名古屋場所、そして約1カ月に及ぶ夏巡業を乗り切るのには、スタミナ維持が欠かせない。力士には昔から、夏を乗り切るためにもちゃんこがあった。名門、春日野部屋にお邪魔して、これからの季節にふさわしいちゃんこをのぞいてきた。

ニラどっさり 滋養強壮効果◎

 夏を乗り切るにはうってつけの食材「ニラ」を前に、春日野部屋のちゃんこ場を仕切って6年になるという栃天翔は、「ニラに合う鍋を考えました」と、大鍋に鶏ひき肉3キロ、豚ひき肉1・5キロに刻んだネギ、しょうがなどを入れてこね始めた。「肉だんごの塩ちゃんこ鍋をつくります」。

 大なべの鶏がらスープに、キャベツ、大根、ニンジンなどの野菜、きのこ類など大量投入。こねた肉をひと口大に丸めて落とし、塩を手づかみで入れながら味を調整。最後に大量のニラを入れ、師匠の春日野親方(元関脇栃乃和歌)ほか親方衆、力士ら約30人前の鍋が完成。けいこが終わるころ、大盛りのレタスとわかめの入った豆腐サラダ、肉野菜炒めを並べた。

大盛りの豆腐サラダにかつお節をかけて仕上げる、ちゃんこ長の栃天翔
大盛りの豆腐サラダにかつお節をかけて仕上げる、ちゃんこ長の栃天翔

 鍋を前に座り、まずはしをつけた春日野親方。「ニラはうまいね、どこの? 高知のか」とお褒めの言葉。同じ鍋を囲んだ栃煌山。実は出身の高知県はニラの日本有数の産地だ。この日のニラも高知県産で少し胸を張る。「親戚に農家も多くて、野菜はいつも食べていた」という。隣の食卓では「いいね」といいながら栃ノ心、碧山も舌鼓を打っている。

 夏は力士には厳しい季節。暑さもそうだが、名古屋場所、夏巡業と約2カ月も東京を離れ、スタミナ、健康維持に気を使う。スタミナ食材はいろいろあるが、ニラは滋養強壮に効果があるとされる。「レバニラ」「ニラたま」なども元気の出そうな料理だ。特に鍋にするとたくさん食べられる上、さっぱりした塩味にも合う。

 幕内3人に夏のスタミナ維持、名古屋場所への意気込みを聞いてみた。

 栃ノ心 入門したときは食が細くて、夜遅くにどんぶりご飯食べたね。夏バテ防止はワインかな(笑い)。たくさん食べて、力強い相撲を見せたい。

 栃煌山 夏は食が落ちると思って少し多めに食べるようにしているので、夏の方が太る。このところ勝ち越しても8番なんで、万全な状態で臨みたい。早く三役に戻らないと話にならないですから。

 碧山 野菜が大好きだから、鍋はいっぱい入っていて好き。夏は水を4、5リットル飲む。名古屋場所はゲンがいいからまずは勝ち越したい。

 春日野親方は栄養士を入れるなど、力士の健康管理に気を使っている。「とにかく、若い衆にはおなかいっぱい食べて、強くなってくれれば」と期待を込める。こうしたスタミナちゃんこも夏に向けて大いにサポートしてくれるだろう。

(協力:春日野部屋)

春日野部屋
総勢40人余りが所属する名門・春日野部屋

 1925年(大14)夏場所直前に引退表明した出羽海部屋の横綱栃木山が8代目春日野を襲名し、同部屋から分家独立を特別に許されて部屋を創設。59年10月に死去後、弟子の横綱栃錦が現役の二枚鑑札で9代目春日野を襲名し、部屋を継承(現役は60年夏場所で引退)。日本相撲協会理事長を務め、90年に急逝。弟子の横綱栃ノ海が10代目春日野として継承した。03年2月、弟子の現春日野が11代目を襲名し、部屋を継承。創設者の栃木山のしこ名から「栃」の字のつくしこ名が多い。

 現在、師匠春日野親方ほか、部屋付き親方6人、力士23人、行司3人、呼び出し2人、床山3人、若者頭1人、世話人2人が所属している。

管理栄養士・山崎みどりのコメント

他のスポーツに比べても、身体を大きくするために食べることが必要な相撲。30人前とは思えない量ですが、必要な量ですね。色んな種類の食材を使うことで栄養価のバランスが取れています。なんでも入れられる鍋だからこそたくさんの食材を使い、簡単でおいしくバランスの良い食事が出来ています。ただ鍋だけでも不足しがちなタンパク質量ですので、副菜の豆腐サラダはいいですね。ご飯もしっかり食べてエネルギーを補給しましょう。