食の安全や健康への意識が高まる中、高知県東部に位置する小さな村「馬路村」が、23年9月に農水省が発表した「有機農業の取組面積が耕地面積に占める割合が高い市町村ランキング」で一位となり注目を集めている。馬路村は今春、地域全体で有機農業に取り組む自治体として「オーガニックビレッジ」を宣言。その背景には、模索し続けてきた自然と共存するための思いがあった。
人口約800人の馬路村は、周囲を標高1000メートル級の山で隔てられた高知と徳島の県境にあり、面積の96%を森林が占めている。川にはアユやうなぎが生息する自然豊かな山村で、190戸の農家がゆずの栽培に従事。農協と力を合わせて生産から加工、販売までを手がけている。看板商品のゆず飲料「ごっくん馬路村」やぽん酢は、全国にファンがいるロングセラー商品となっている。
馬路村が「ゆずの村」となったきかっけは、昭和30年代にさかのぼる。以前は、豊富な雨量と温暖な気候が杉の生育に適しており、林業がさかんだったが、価格低迷や国有林野事業の経営合理化に伴い、行き詰まりを見せ始めたため、いちるの望みをかけてゆずの栽培がスタートした。
当初は搾ったゆず果汁の販売が中心だったが、果汁を使った飲料など加工品の開発も積極的に行い、昭和50年代に通信販売に大きくかじを切ったことで、全国に名前が広がっていった。
ゆず事業の拡大は、村内に与える影響も大きく、ゆず農家や加工品の製造工場で働く人も少しずつ増えていき、昭和61年には、現在も主力商品である、ぽん酢しょうゆ「ゆずの村」を発売。昭和63年に西武百貨店の「日本の101村展」で最優秀賞を受賞したことで、馬路村農協の商品が一気に世間に認知されるようになった。
馬路村の商品が支持される理由は、おいしさと製法にある。農協に出荷する全てのゆず農家は、化学肥料や化学系農薬を用いず、加工の際に出る残さを堆肥化して畑にまく、「循環型柚子農法」を確立。夏でも朝晩の寒暖差が大きい村の気候も手伝い、力強い香りと味わいをもつゆずが育つという。
合言葉は、「村の中でゆずを余さず使い切る」。果汁や皮は、ぽん酢やジャム、ゆずこしょうなどに加工し、種から抽出したオイルをベースにしたスキンケアアイテムも開発。自然との共存を追い求め続けてきた結果、現在は85種類ほどのアイテムを展開しているという。
ゆずを生産し、加工し、販売する―。小さな山間地のまっすぐな挑戦は、「林業の村」だった馬路村を「ゆずの村」に変えた。今では農家190戸、農協職従業員90人とゆず産業が大きく成長した馬路村。「オーガニックビレッジ」のぶれない挑戦は続く。