世の中は、タンパク質ブームです。その人気は若者から高齢者にまで広がり、プロテイン食品の市場規模は急拡大を続けています。

タンパク質は「体を作る」栄養素として、筋肉増強のためにアスリートや運動愛好者が摂るものというイメージが強いかもしれませんが、代謝や免疫などの機能を助ける働きがあり、肉体だけでなく脳や思考、性格にも影響を与えていると言われます。厚生労働省は高齢者のフレイル(虚弱)予防のために、タンパク質の摂取を強く推奨していますが、ジュニアアスリートの保護者世代、40~50代の多くはまだ、自分事として捉えていない人も多いでしょう。

タンパク質の不足が続くとどうなってしまうのか、大人はどのくらい摂取すべきなのか…。「栄養療法」のコメンテーターとしてメディアで活躍中の心療内科医の姫野友美・ひめのともみクリニック院長に聞きました。【アスレシピ編集長・飯田みさ代】

タンパク質充足検査で思わずショック…

この検査結果を見るまでは、自分の体はタンパク質で満ちていると思っていました。尿で分かるタンパク質充足検査「フレミーチェック」の判定で、1日における摂取量は48.8gで「目標量に達していない」。まさかの結果にショックを受けたのです。

タンパク質充足検査の結果(一部抜粋)
タンパク質充足検査の結果(一部抜粋)

姫野院長に伝えると、「相当足りないですね。何を召し上がってるんですか?」とバッサリ。「そ、そこまでひどい食生活を送っているとは思ってなかったんですが…」としどろもどろになりながら、検査直前の自分の食事内容をおおまかに伝えました。

<オンラインで在宅勤務だったある日の食事内容>
(50代、体重50kg弱、タンパク質量は自己判断)

朝食=タンパク質量20g程度
・ご飯1膳(約120g)
・納豆1パック
・弁当の残り(卵焼き2切れ、肉野菜炒め2口ぐらい、サケ塩焼き2口ぐらい)
・ヨーグルト(キウイ半分、オートミール大さじ3、無糖ヨーグルト80gぐらい、コラーゲンパウダー5g、はちみつ)
・ミニトマト3個程度
・ホットコーヒー

昼食=タンパク質量10g程度
・冷凍うどん1玉
・卵1個と野菜を適当にトッピング

夕食=タンパク質量25g~30g程度
・ご飯1膳(約120g)
・豚しゃぶ+野菜
・ナスの煮浸し、無限ピーマン、キムチなどの副菜
・豆腐とツナの卵ミルクスープ
・ミニトマト3個程度

1日のタンパク質=合計55~60g

姫野院長 うーん、昼食が摂れていないですね。タンパク質は糖質や脂質と違って体に貯めておけないから、1食20gずつに分けるなどこまめに摂る必要がありますよ。動物性と植物性は2:1、肉と魚は1:1。特に動物性は全タンパク質に占める割合が50%未満だと平均寿命が短く、70%以上だと動脈硬化のリスクが高くなるという報告があります。もう少しアミノ酸スコアの高い動物性タンパク質をとっていった方がいいですね。

確かに昼食は手を抜いていて、量も内容も今ひとつ。朝晩でカバーできると思っていましたが、そう甘くはありませんでした。

姫野院長 また、単にタンパク質だけを摂ればいいわけではありません。タンパク質は消化管でアミノ酸に分解され、体の中で使われるために再合成されますが、そのときにビタミンB群(B6)が必要になるので、B群を含む食材を一緒に摂ることも大切ですね。

調理すると、タンパク質は目減りする

続いて姫野院長は、食材を調理する際に起こる見逃しがちなポイントを指摘しました。

姫野院長 タンパク質は煮たり焼いたりするとメイラード反応(糖と結びついて変性する)が起こるので、食材に含まれている量よりも実際に食べる時は少なくなるんです。この目減りを見込んで多めにとっていかないと厳しいですね。

ということは、私が自己判断していた量よりも、実際に食べた量は少ないのかもしれません。それでも体重1kgあたり1g、体重相当のタンパク質は摂れてなら十分じゃない?…と思っていたら、すかさずダメ出しを食らいました。

姫野院長 年齢とともに消化吸収能力は落ちるんです。食べても若い時ほど体が吸収してくれませんし、アミノ酸への分解・再合成(タンパク同化)もできません。「目標量」がかなり高く設定されているのも、そういったことが理由です。10代、20代は食べた分だけ体の中で働いてくれましたが、30代以降はそうではなくなります。

加齢とともに消化吸収力は低下する

厚生労働省が定めた「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、1日に必要なタンパク質の摂取量として「推奨量」と「目標量」の2つの基準が定められています。「推奨量」では1日当たり、18~64歳の男性は65g、65歳以上の男性は60g、18歳以上の女性は50gとなっていますが、「目標量」は生活習慣病の発症予防を目的として設定され、身体活動の量によって数値が異なり、どの年代も推奨量よりも高い数値が設定されています。

1日に必要なタンパク質の目標量(身体活動レベルはIが低く、IIIが高い。単位はg)。赤枠はアスレシピの保護者世代
1日に必要なタンパク質の目標量(身体活動レベルはIが低く、IIIが高い。単位はg)。赤枠はアスレシピの保護者世代

上の表を見ると、保護者世代(赤枠)も成長期の10代とそれほど数値が変わらないことに気付くでしょう。体内で使える量が少ないため、その分、たくさん摂る必要があるのです。エネルギー摂取を控えなければならない一方でタンパク質は多く摂らなければならない保護者世代は、食事のとり方に工夫が必要だということです。

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