「パーキンソン病」は脳の神経細胞が壊され、神経伝達物質のドーパミンが減る難病で、動作が遅くなり、手足の震え、歩行障害や便秘、睡眠障害など様々な症状が現れます。50歳頃から増え始め、高齢になるほど発症率や有病率が増加。日本での患者の割合は約1000人に1人、平成26年の統計では約16万人が罹患しているとされ、高齢化に伴い、今後さらに増えると予想されています。

世界的に治療の研究が進められていますが、今のところ根本的な治療法はありません。しかし、薬物療法で進行を遅らせることができ、うまく付き合うことで長生きすることはできます。

スポーツ栄養から病気の患者に栄養指導

そんなパーキンソン病患者がより快適に、楽しく暮らせるためにと「パーキンソン病の栄養と運動(PDライフ)」を提唱し、栄養指導をしているのが、患者の1人でもある管理栄養士の山口美佐さん(59)です。以前は大学テニス部の栄養コーチを務め、アスレシピの部活弁当コーナーを担当するなどコラムやレシピを提供。スポーツ分野を中心に活動していましたが、今はシフトチェンジし、新たなチャレンジをスタートさせています。

笑顔で話をする山口さん
笑顔で話をする山口さん

「パーキンソン病は『何を食べても良い』と言われています。生活習慣病などとは違い、食べ物によって病状が悪化することがないからです。しかし、当事者としてそうではないと思っています。私たちは普通に生活するためには薬を手放せません。その薬の効果を最大限に高めるための食材や栄養、食べ合わせ、より快適に過ごすための生活のポイントも分かってきました。食で病気は完治しませんが、体調を良くすることで生活の質を上げられます」。

「低体重の危険性」の研究を世界に発表

今年7月には、スペイン・バルセロナで行われた世界パーキンソン病会議(WPC)に参加。3人の医師や大学准教授らと調査したパーキンソン病患者に多い「低体重」の危険性についての研究を報告し、標準体重にするための運動と食事の方法を発表してきました。

世界パーキンソン病会議で山口さんが発表した低体重の研究(一部抜粋)
世界パーキンソン病会議で山口さんが発表した低体重の研究(一部抜粋)

「実際に、パーキンソン病の方はやせている人が多いんです。低栄養になると便秘にもなりますし、筋肉量が減るとフレイルにもなる。疲れがとれず低血圧、むくみ、免疫力低下、筋固縮、つまずく、ねんざ、動かない、食欲低下、低栄養…と負のスパイラルに陥ります。やせないために、食べられる体を作るためにも運動は重要です」。

山口さん自身も数年前まではBMIが17台とやせ型でしたが、ここ5年間で体重は約5キロ増え、BMIは標準の18.5以上をクリアしたといいます。運動では、卓球、陸上・短距離、ゴルフにも挑戦。「筋肉量が増えて冷えや凝りがなくなりました」。そう笑顔で語る姿は少し日焼けして、全く病気を抱えているようには見えません。

ロックステディボクシングを指導する山口さん(動画から)
ロックステディボクシングを指導する山口さん(動画から)

数々のスポーツに挑戦、インストラクターにも

さらにパーキンソン病のリハビリや症状改善・回復を目指した「ロックステディボクシング」のインストラクターの資格も取得し、毎週末レッスンを開催。「毎月1回実施するランチ会も大盛況です。やってきたスポーツ栄養が役立っています」と栄養バランス、目的、服用する薬の種類や量を考えた食事をアドバイスし、受講生たちが元気になる様子が自身の励みにもなっているといいます。また、ミセスコンテストにも出場するなど、病気と共存しながら「自分磨き」も怠りません。

ミセスコンテストに出場した山口さん
ミセスコンテストに出場した山口さん

まさかの病気、その場で泣き崩れた

2015年に腰椎の手術をし、リハビリの過程でまさかの病名を告げられたときは「ショックで、その場で泣き崩れました」。その直前まで死別した夫のがん闘病に寄り添い、自身のことは後回し。気付いたときは「歯磨きがうまくできず、あれっと思った状態だった」と振り返ります。

パーキンソン病は症状が出るまで10年近くかかり、初期症状は更年期症状にも似ているため、気付きにくいのも特徴です。管理栄養士という健康を扱う専門家であるがゆえ、告知から数年間は病気を隠して仕事を続けていましたが、症状の進行とコロナ禍での生活の変化もあり公表。今はメンタル面のストレスから解放され、次々とやりたいことが沸き上がっているようです。

同じ病気の方たちのために、自分のために、できることは何でもトライ。医師や専門家を巻き込んで、支えてくれる人の輪もどんどん広がってきています。「今はパーキンソン病の方が輝ける場所、コンテストを開いてみたいんです」。目を輝かせながら生き生きと語る姿は力強く、頼もしく見えました。

【アスレシピ編集長・飯田みさ代】

パーキンソン病の主な症状

パーキンソン病の運動症状で特徴的な症状は、①安静時振戦、②無動、③筋強剛(筋固縮)、④姿勢反射障害の4つです。これらのうち②無動があり、なおかつ①安静時振戦か③筋強剛(筋固縮)がある場合にパーキンソン病を疑います。

以下の症状で気になることがあれば、医師に相談してみましょう。

<運動症状>
安静時振戦
・じっとしているときに震える(1秒間に5回程度、片方の手や足の震えから始まることが多い)
・睡眠中は治まるが、目が覚めると震えが始まる

無動
・動きが鈍くなる
・歩くときに足が出にくくなる(すくみ足)
・話し方に抑揚がなくなり、小声になる
・書く文字が小さくなる

筋強剛(筋固縮)
・顔の筋肉がこわばり、表情がなくなる
・手足の動きがぎこちない
・肩や腰が痛む

姿勢反射障害
・体のバランスがとりにくくなり、転びやすくなる
・歩いていて止まれなくなる、方向転換をするのが難しい
・食べ物を飲み込みづらくなる(嚥下障害)
・症状が進むと、首が下がる、体が斜めに傾くこともある

<非運動症状>
・自律神経症状(便秘や頻尿、立ちくらみ、食後のめまいや失神、発汗、むくみ、冷え、性機能障害)
・認知障害(遂行機能障害、ひどい物忘れ)
・嗅覚障害
・睡眠障害(不眠、日中の眠気)
・精神症状(うつ・不安などの症状、無気力、幻覚や錯覚、妄想など)
・疲労や疼痛、低体重(疲れやすい、肩や腰の痛み、手足の筋肉痛やしびれなど)