なんだか気力が沸かない、イライラする…病気ではないのに「なんとなく不調」を感じる中高年の男性の方、いませんか。それは「年のせい」でも「メンタルの不調」でもなく、「男性更年期障害」が原因かもしれません。

更年期は男女ともホルモンバランスが大きく変化し、様々な症状が現れます。その症状がひどくなり日常生活に支障が出る「更年期障害」も女性特有のものではなく、男性にもあるのです。しかし、女性に比べて認知や理解が低い上に、症状が「うつ病」と似ているため、間違えて治療を続け、悪化させている人がいるのも事実です。

女性と違って終わりがなく治癒率も低い

加齢だけでなく、ストレスも原因と考えられる男性更年期障害は終わりがなく、治癒率が低いもの特徴です。男性更年期障害をどう予防して対処すればいいのか、男性更年期外来で治療を行っている表参道総合医療クリニックの田中聡院長に解説してもらいました。

Q、男性更年期障害とは

田中院長 男性更年期障害は、男性ホルモン(テストステロン)の低下によるLOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)というもので、女性と異なり30~70代という幅広い年代で発症しうるものです。心身における様々な症状によって、日常生活に支障をきたします。

Q、患者数は増えていると聞くがホント?

田中院長 本当です。男性の更年期障害については、女性と違って認知度が低い状況にありますが、症状を訴える方は年々増加しており、深刻な社会問題とされています。医師を対象としたあるアンケートでは、30歳以上の日本人男性の23%(約1000万人)が生涯において、何らかの男性更年期障害の症状を感じると考えていると回答しているものの、受診率はまだ10%前後。更年期のサインが女性ほど明確に認識されていないため、原因がわからず1人で悩みを抱えたり、うつ病と思い込んでしまったりするケースも多くあります。

<参考>
2022年に報告された厚労省の「更年期症状・障害に関する意識調査」によると、「男性にも更年期にまつわる不調があること」について知っているかという質問に対し、女性は年代が上がるほど「よく知っている」の割合が高かったが、男性は年代が上がるほど「聞いたことがあるが、内容について詳しく知らない」の割合が高く、認知度の低さを表している。また、「医療機関への受診により、更年期障害と診断された/診断されている」男性の割合は40歳代で1.5%、50歳代で1.7%にとどまったが、「更年期障害の可能性があると考えている」という割合は40歳代で8.2%、50歳代で14.3%もあり、何らかの症状を抱えているにもかかわらず、治療せずに放置しているケースが多いようだ。

Q、男性更年期障害の主な症状は

田中院長 男性の場合、一般的に男性ホルモン(テストステロン)は中年以降、加齢とともに穏やかに減少していきます。その減少の早さや度合い、時期は個人差が大きいものの、下記のような症状が現れます。

身体症状
・関節症、筋肉痛など痛みを感じやすくなる
・疲れやすい
・発汗やほてり
・肥満、メタボリックシンドローム
・頻尿

精神症状
・イライラ
・不安、パニック
・うつ
・不眠
・興味や意欲の喪失
・集中力、記憶力の低下

性機能症状
・ED(勃起障害)
・性欲低下

この中でも代表的なものは「やる気が起きない(興味や意欲の喪失)」「イライラする」「集中力の低下」「性欲低下」といったものですが、これらの症状を見ると、男性更年期症状とうつ病の症状は重なる部分が多く、密接に関係しているといえます。

Q、発症のメカニズムと発症率の高い年代は

田中院長 男性ホルモンの生成量は20代がピークで、30代以降になると徐々に減少していきます。30~40代以降、どの年代でも起こる可能性があり、中でも50~60代は発症率が高まります。女性の更年期障害は閉経後5年ほどで症状が落ち着き、回復しますが、男性の更年期障害には終わりがないことが特徴で、そのまま放置していても回復しません。

Q、どのような人がなりやすいの?予防法は?

田中院長 男性ホルモンは男性の健康維持に働いており、加齢やストレスによってテストステロンは減少するので、更年期障害を防ぐことは難しいのですが、生活の中の少しの工夫で、テストステロンを維持することが期待できます。

具体的に言うと、栄養バランスに十分配慮した食事を心がけ、気分転換や疲労回復ができるよう十分な睡眠・休養をとり、ストレスをためず、適度な運動を行って適性体重をキープすることです。逆に言うと、食生活が乱れている人、過度なストレスを抱えている人、睡眠不足の人など、ホルモンバランスが乱れている人は、男性更年期障害になりやすいと言えます。

Q、症状を感じたらどうしたらいい?

田中院長 男性更年期障害は放置しても治る病気ではなく、悪化することもあります。気になる症状があれば、医療機関を受診して相談してみてください。まだ日本では「男性更年期外来」の数は少ないですが、できれば専門医の受診をおすすめします。もしくは「泌尿器科」のある病院を受診しましょう。

病院ではテストステロン値の血液検査と問診により、診断します。男性更年期障害と診断された場合は、漢方薬や抗うつ剤の治療、男性ホルモン補充療法など、症状に合わせて適切な治療法を選択し、症状の改善を図ります。

Q、早期に気付くには?見極めのポイント

田中院長 男性更年期障害はゆっくりと進行し、徐々に症状が重くなっていくという特徴を持っていますので、本人も気づかないところで症状が現れているというケースも少なくありません。ご自身の不調を見逃さず、できるだけ早めの対策をとることが大切です。

Q、うつ病と間違えないためには

田中院長 男性更年期障害とうつ病の診断は非常に難しいと言われています。実際、相談する病院によって診断が分かれることも多く、治療の遅れから症状が悪化するケースもありますので、専門的な検査を受けて判別していくことが大切です。

症状の違いとしては、男性更年期障害は夕方にかけて疲労感や気力の低下、肥満、頻尿などの症状がみられ、典型的なうつ病は朝方に気力が低下して夕方につれて元気が出てくるという日内変動があります。不調を感じたら自己判断せず、まずは医療機関を受診してみてください。

田中聡さん

表参道総合医療クリニック院長。2010年3月に大阪医科大学卒業後、脳神経外科、脊椎外科を中心に手術経験豊富。2023年3月に再生医療や先端医療にも取り組むクリニックを開院。男性更年期外来も治療する。日本脳神経外科専門医、脊椎脊髄外科専門医、日本脊髄外科認定医、テストステロン治療認定医、厚生労働省指定オンライン診療研修終了

【アスレシピ編集部・飯田みさ代】