イヤホンをつけた音楽聴取による「娯楽性難聴」が現在、若者を中心に増加しているとして世界保健機構(WHO)が警鐘を鳴らしている。これを背景に、順天堂大学の研究グループは各種イヤホン装着時の音楽聴取の実験を通じて、特に地下鉄などの騒音環境下での音楽聴取は難聴リスクを高めること、またイヤホンの「ノイズキャンセリング機能」が難聴予防に有効とする研究結果を発表した。

娯楽性難聴とは騒音性難聴のひとつで、ナイトクラブ、ディスコ、パブ、コンサート、スポーツ観戦、フィットネスクラスなど娯楽施設での騒音曝露や音楽プレーヤーなどの娯楽機器での過大音聴取で引き起こされる難聴のこと。

耳の感覚細胞は、定期的または長期に及んで大きな音に晒されることにより徐々に傷つき、永久的な聴力損失につながるとされている。また、携帯型音楽プレーヤーやスマートフォンで強大音量を聴取する習慣が5年以上も継続すると、一時的または永続的な高周波域の難聴になることも示されている。

一方で、多くの研究によって、安全な音響の上限は「85dBで8時間まで」とされているが、現在使用されている携帯型音楽プレーヤーやスマートフォンで出力可能な最大音量は安全域を越えており、特に地下鉄内など雑音が生じている中では音量を増大させる傾向にある。

今回の研究は、聴力が正常な成人23名を対象に、静寂な環境条件下と地下鉄内で録音した環境騒音(80dB)下という2つのシーンで、耳置き型、ヘッドホン、インサート型、ノイズキャンセリング(NC)機能付きインサート型の4種類のイヤホンを用いてポップスとクラシック音楽を聴き、一番聞き心地の良い音量(最適リスニングレベル)を計測した。

実験に使用したイヤホン。左からA=耳置き型、B=ヘッドホン、C=インサート型、D=ノイズキャンセリング機能付きインサート型(リリースより)
実験に使用したイヤホン。左からA=耳置き型、B=ヘッドホン、C=インサート型、D=ノイズキャンセリング機能付きインサート型(リリースより)

測定システムの模式図。外耳道内の音圧はイヤホンを装着しながらプローブマイクを挿入することで測定しました(リリースより)
測定システムの模式図。外耳道内の音圧はイヤホンを装着しながらプローブマイクを挿入することで測定しました(リリースより)

その結果、ノイズキャンセリング機能付きインサート型以外の3種類では、騒音環境での音楽聴取時に最適リスニングレベルが上昇。特に耳置き型、ヘッドホンでは、危険な音量とされる85dB以上になる場合があったのに対し、ノイズキャンセリング機能付きインサート型は安全音量とされる75dB以下を保っていたという。

最適リスニングレベルの計測結果。左側はイヤホンの種類別(黒塗りは騒音下、白抜きは静寂下)、右側は外耳道での音圧との関係(リリースより)
最適リスニングレベルの計測結果。左側はイヤホンの種類別(黒塗りは騒音下、白抜きは静寂下)、右側は外耳道での音圧との関係(リリースより)

これらのことから研究グループは、騒音環境下では、安全に音楽を聴取し、難聴予防の面からノイズキャンセリング機能のついたイヤホンの使用が有効だとしている。しかしながら、最適リスニングレベルには個人差があるため、聴取している音量をモニターして危険な音量に到達した場合に警告を発する仕組みの開発や、定期的に聴力検査を施行して早期に一過性の難聴を発見するとともに、永続的な難聴への進行を予防することも重要だとしている。

なお本研究は、順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター耳鼻咽喉科の池田勝久特任教授と電気通信大学大学院情報理工学研究科の小池卓二教授、順天堂大学医学部耳鼻咽喉科学講座・リハビリテーション室の保科卓成言語聴覚士らの研究グループによって行われ、本研究に関する論文は、Journal of Audiology & Otology誌のオンライン版にて3月24日付で先行公開された。