<スポーツする人の栄養・食事学/第1章 からだにいい食事や栄養とはなにか(10)>

Q、食物アレルギーで食事が制限されています。どう対応したらいいでしょうか?

A、ある食べ物を口にすることで、なんらかの体調の異変が生じるのが「食物アレルギー」や「食物不耐症」です。食べられないものがあるスポーツ選手は、その有無をきちんと確認し、治療と並行して食事・栄養指導を継続して受ける必要があります。食べられない原因食物の除去は、正確な診断に基づいて必要最小限にするのが原則で、きちんと除去できているか、症状は出ていないかを日々きびしくチェックすることが求められます。

「食物アレルギー」と「食物不耐症」は別のもの

「食物アレルギー」と「食物不耐症」のメカニズムはまったく別のものです。しかし、食べる物によってなんらかの病的な症状が出ることに違いはなく、特に食べることでコンディションを整え、体を動かすエネルギーを調達するスポーツ選手にとって、その影響は大きいものがあります。

プロテニスプレーヤー、ノバク・ジョコビッチ選手は、小麦などの穀物粉に含まれるたんぱく質の一種グルテンが原因で発症するグルテン不耐症と乳糖不耐症でした。

幼いころ、家族がピザ屋を経営していたことから、何年間もピザを簡単につまみ食いし、プロ選手になってからも、ピザ、パスタ、パンなどのイタリア料理を1日数回、肉料理と一緒に食べ続けていたそうです。毎日の猛練習にもかかわらず、こうした食生活が、動きの緩慢、好不調の波、体重過多などを招き、それがやがて、2010年1月の全豪オープンの準々決勝では、自身のダブルフォルトによって試合が終わるというプロ生活最悪ともいえる敗退を喫することにつながりました。

この試合をテレビ中継で偶然見ていた、同じセルビア出身の栄養学者、イゴール・セトジェヴィッチ博士は、不調の原因は間違った食事にあると診断。どの食材が炎症を起こしているのかを確認し、はじめの2週間はグルテンを、次の2週間では余分な糖分と乳製品を排除するという“新しい食事”によって、肉体的にも精神的にもかつてない活力がみなぎるようになったといいます。

その結果、全豪オープン敗退からわずか18カ月後の2011年7月にはウィンブルドン優勝、世界ランキング1位に輝き、今もなお世界最強の名声を得ています。

食事の改善が、その人の人生を激変させた好例ともいえます(『ジョコビッチの生まれ変わる食事 あなたの人生を激変させる14日間プログラム』ノバク・ジョコビッチ著、タカ大丸訳、三五館、2015年)。

食物アレルギーとは

食物アレルギーは、アトピー性皮膚炎、ぜんそく、アレルギー性鼻炎と並ぶアレルギー疾患の1つで、原因となる食物を摂取した後に、抗原特異的な免疫学的なしくみを介して、皮膚、呼吸器、目・口・鼻などの粘膜、消化器など生体に不利益な症状を引き起こす現象と定義されています(『食物アレルギー診療ガイドライン2016』日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会)。

食物アレルギーには、次のような症状があり、もっとも多いのが皮膚系です。

皮膚系……かゆみ、むくみ、じんましん、皮膚が赤くなるなど

呼吸器系……咳、のどの腫れや痛み、呼吸困難など

粘膜系……くしゃみ、鼻汁、鼻づまり、目が赤くなる、まぶたの腫れ、涙が止まらない、口腔・口唇・舌の腫れや違和感など

消化器系……腹痛、嘔吐、下痢など

わが国の食物アレルギーの有症率は、乳児が約10%、3歳児が約5%、保育所児が5・1%、学童以降が1・3~4・5%で、全年齢を通しては、推定で1~2%程度と考えられています。

原因となる食物は多岐にわたり、その割合は、鶏卵39%、牛乳22%、小麦12%の3つで7割を超え、残りはピーナッツ、果物類、魚卵、甲殻類、種実類、そば、魚類の順となっています(『AMED研究班による食物アレルギーの診療の手引き2017』「食物アレルギーの診療の手引き2017」検討委員会)。

食物不耐症とは

食物アレルギーが免疫系を介して極微量の原因食物でも発症するのに対して、食物不耐症は消化器系を介して発症し、「非アレルギー性食物過敏症」ともいわれます。

食べた物の消化、分解、吸収、合成といった一連の代謝には、食物ごとに決まった酵素が必要です。しかし、ある消化酵素が先天的あるいは後天的に不足や欠乏すると、その食物が消化できずにさまざまな症状があらわれます。原因食物が少量の場合は発症しないこともあり、発見には時間がかかります。

頭痛、腹痛、腹部不快感、下痢、胸焼け、吐き気、食欲不振、動悸、発汗、皮膚の乾燥、発疹、呼吸困難などの症状がみられるほか、疲労の原因にもなります。

おもな不耐症と原因食物との関係は、次のとおりです。

グルテン不耐症……小麦、大麦、ライ麦、米、大豆などの穀物粉に水を加えることでできるたんぱく質の一種がグルテンです。うどん、ラーメン、お好み焼き、パン、パスタ、ケーキ、醬油や味噌など、ほとんどの小麦加工品に含まれています。最近、グルテンを除去したグルテンフリーの食品が売られています。欧米の基準では、グルテン含有量が20㎎/㎏未満であればグルテンフリーと表示できると定められています。

乳糖不耐症……牛乳、ヨーグルト、チーズなどに含まれる乳糖を分解する酵素ラクターゼの活性が低く、乳糖を消化吸収できないために出る症状で、もっとも顕著な症状は下痢です。

卵白不耐症……卵白に対する不耐症で、卵黄不耐症よりも一般的です。

その他の不耐症……アルコール(エタノール)を分解するアルコール脱水素酵素(ADH)やアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の活性が弱いアルコール不耐症では、酒に弱かったり、注射をするときの消毒用アルコールで皮膚が赤くなる症状が出ます。ほかにも、カフェイン、果糖、チョコレート、イチゴなどに対する不耐症もあります。

食物アレルギーや食物不耐症の人への周囲の対応

食べられないものがあるスポーツ選手に対して注意しなければならないのは、単純に好き嫌いが多い、偏食だと決めつけてしまうことです。もしかしたら食物アレルギーや食物不耐症ではないかと疑い、その有無をきちんと確認しなければいけません。

チームや団体にそのような選手がいればなおさら、監督や指導者は原因食物の有無を確認し、寮生活や合宿、遠征先などでまとめて調理する場合、微量でも口にしないように徹底して注意を払う必要があります。「同じ釜の飯」を強要するわけにはいかないのです。

症状は変化しやすいので、選手自身も定期的に専門医を受診して現状を確認し、監督や指導者に具体的に報告する必要があります。ジュニア選手の場合は、保護者の役割がより重大で、子どもが周囲の無理解によって無理やり食べさせられるような状況は避けるべきです。

食物アレルギーや食物不耐症の人に対する栄養・食事指導は、治療と並行して継続して行われるものです。食べられない原因食物の除去は、正確な診断に基づいて必要最小限にするのが原則です。そのためにも、食物経口負荷試験などで除去の程度を把握し、食物日誌をつけるなどして、症状が出ていないかをきびしくチェックすることが求められます。

(つづく)