<スポーツする人の栄養・食事学/第1章 からだにいい食事や栄養とはなにか(6)>

Q、スポーツをする人は、できるだけ体脂肪を減らしたほうがいいのでしょうか?

A、いいえ、体脂肪は適切に維持されなければいけません。筋肉ムキムキのアスリートにならって、とにかく体脂肪を減らしてしっかり筋肉をつけることばかりに注力する人がいますが、脂質は不要なものだとして目の敵にするのは間違いです。脂質は、量だけでなく質にも注意が必要で、特に動物性脂肪の主成分である飽和脂肪酸は控えめにして、植物油や青魚、魚の油から必須脂肪酸を積極的に摂取しましょう。

食品中の脂質の主成分である脂肪酸のなかには、生命の維持に不可欠であるにもかかわらず体内では合成できず、毎日の食事からとる必要がある「必須脂肪酸」があります。

ここで、脂肪酸について説明しましょう。

「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」

脂肪酸は、炭素、水素、酸素の3つの元素で構成され、そのうちの炭素の数や炭素と炭素のつながり方の違いなどによって「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分かれます。

バター、ヘット(牛脂)、ラード(豚脂)といった動物性脂肪の主成分である飽和脂肪酸の多くは常温でも固形の状態です。ココナッツやパームフルーツなどヤシ科の植物の種子や、母乳、牛乳にも多く含まれる中鎖脂肪酸も飽和脂肪酸の1つで、中鎖脂肪酸100%の油(MCT:Medium Chain Triglyceride)は、消化吸収が速く、肝臓で素早く分解されてエネルギーとなるために、体内に蓄積されにくいのが特徴です。

いっぽう、植物油や魚油などの不飽和脂肪酸は液状で、「一価不飽和脂肪酸」(オリーブオイルやキャノーラ油に多く含まれるオレイン酸など)と「多価不飽和脂肪酸」に分かれます。必須脂肪酸とは、この多価不飽和脂肪酸のうち、α-リノレン酸、リノール酸のことを指します。

オメガ3、オメガ6とは

最近、オメガ3、オメガ6という言葉をよく耳にしますが、これは多価不飽和脂肪酸のなかで構造が異なる2つの脂肪酸のことです。

オメガ3脂肪酸(n−3系脂肪酸)には、アマニ油、エゴマ油、シソ油といった植物油やクルミに多く含まれるα-リノレン酸、天然の青魚(サバ、イワシ、ニシン)や魚油に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)などがあります。オメガ3脂肪酸には血中の中性脂肪値を低下させるなど生活習慣病の予防効果があるため、18歳以上の摂取目標量が決められています。

オメガ6脂肪酸(n−6系脂肪酸)には、コーン油、ヒマワリ油、紅花油(サフラワー油)、大豆油、ゴマ油といった植物油やマヨネーズに多く含まれるリノール酸、肉、魚、卵、肝油などに含まれるアラキドン酸、月見草油など特殊な植物油に含まれるγ-リノレン酸などがあり、日本人の98%は、オメガ6脂肪酸をリノール酸から摂取しているとされています(農林水産省)。

脂質のとりすぎは、皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉内などの異所性脂肪の3つをまとめた体脂肪の量を増やし、必要以上に多くなれば生活習慣病の発症リスクが高まります。反対に、体脂肪の量が必要以上に減少してしまうと体力が低下し、特に女性の場合は月経異常を起こすこともあります。

脂質の「質」が大切

脂質は、その質にも注意する必要があります。特に動物性脂肪の主成分である飽和脂肪酸は、とりすぎると悪玉(LDL)コレステロールの血中濃度を上げ、糖尿病、動脈硬化から心疾患の発症リスクを高めます。日本人の摂取量は欧米人に比べて少ないものの、できるだけ控えめにしたほうがいいでしょう。

いっぽう、必須脂肪酸であるオメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸は共通して心疾患のリスクを低下させるだけでなく、オメガ3は脳の発育にも重要な役割をはたし、認知症の症状改善の期待が高まっています。

食事によって脂質を摂取するにあたっては、前述の植物油や青魚、魚の油から、特にオメガ3脂肪酸を摂取することが望ましいのですが、そればかりに注目しすぎることなくバランスよく摂取することが大切です。

その結果、自分の体に蓄積された体脂肪量がはたしてどのくらいあるのかは、体重に占める体脂肪量の比率をパーセントであらわした「体脂肪率」で知ることができます。市販の体組成計を使えば、体脂肪率だけでなく、BMI(Body Mass Index:体格指数)、内臓脂肪レベル、筋肉量、基礎代謝量など、自分の体のおおよそのことを知ることができます。

厚生労働省によれば、体脂肪率の標準値は、男性15~20%、女性20~25%で、男性は25%以上、女性は30%以上が肥満とされています。

理想とされる体脂肪率は、競技種目によっても異なりますから、体脂肪率を落とすならばどこまで落とすのかを見極めてウエイトコントロールをしなければなりません。

マラソンやトライアスロンなど、持久力が勝負の長距離選手は男性5~12%、女性8~15%と低く、水泳選手は浮力を得やすくするために男性6~12%、女性10~18%と、ほかの競技種目と比べて少し高くなっています。 参考までに、腹筋が割れ、腕の力こぶの血管が浮いて見えるような筋肉質の体型の人の体脂肪率は、おおむね10%以下です。

(つづく)