<女は筋肉 男は脂肪/第2章:体力・運動能力の男女差はなぜ生まれるか(5)>

脂肪・脂肪組織とは

体力の男女差を生む大きな要因となっている身体組成ですが、骨格筋に続いて、脂肪・脂肪組織に話を移しましょう。

そもそも、脂肪・脂肪組織とはなんなのでしょうか。

よく「中性脂肪」という言葉を耳にしますが、動物の場合は、体を動かすエネルギー源として体内に蓄えられた脂肪を指します。植物の場合は、種子に多く蓄えられ、油脂ともいいます。

この中性脂肪は体のどこに蓄えられるかによって、「皮下脂肪」「内臓脂肪」「異所性脂肪(エイリアン脂肪)」という異なる言い方をします。

皮下脂肪は、皮膚の下にある皮下組織につく中性脂肪で、体温を維持したり、エネルギーを貯蔵したり、外からの衝撃に対するクッションの役割をします。

内臓脂肪は、おもに腸間膜に蓄積される中性脂肪で、おなかがボッコリ張り出した太鼓腹の原因がこれです。腸間膜は、腹腔と呼ばれる腹部の空間内にあって小腸や大腸を包むようにつないで固定し、内臓を吊り下げる働きをする薄い膜です。

異所性脂肪は、皮下脂肪や内臓脂肪の脂肪組織以外の心臓、肝臓、すい臓などの臓器自体やその周囲、あるいは骨格筋に蓄積されたものです。

皮下脂肪、内臓脂肪、異所性脂肪の3つをまとめて「体脂肪」といいます。

内臓脂肪が悪さをする

内臓脂肪が過剰にたまると腸間膜は厚みを増し、肝臓、すい臓や太い血管の周囲が脂肪で埋まっていきます。そうなると、おなかボッコリの見た目の悪さどころではありません。動脈硬化を促進し、高血圧症、虚血性心疾患、高血糖(2型糖尿病)、がんや認知症など、重大な病気を発症するリスクを高めてしまうなどの悪さをするのです。

内臓脂肪がたまることによって、脂肪組織でつくられる「アディポサイトカイン(adipocytokine)」と呼ばれる物質が分泌調節不全をきたし、血液中の悪玉物質が増加し、血液中の善玉物質の濃度を低下させて、生活習慣病のリスクを高めてしまいます。

「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」の診断基準の1つに内臓脂肪の蓄積が加えられているのは、こうした理由によります。

脂肪の量の男女差

現在の身体組成の研究では、体重を「体脂肪量」と「除脂肪量」の2つの要素に分ける方法が使われています。

体脂肪量は、皮下脂肪、内臓脂肪、異所性脂肪といった体脂肪だけの量のことをいい、除脂肪量は、体重から体脂肪量を除いた量を指します。つまり、体脂肪量と除脂肪量を合計したものが体重です。

下の図を見ると、男女ともに20歳過ぎまで、体脂肪量、除脂肪量はいずれも増加し、特に除脂肪量の大きな変化によって体重も急激に増加していることが分かります。

体重、除脂肪量、体脂肪量の加齢変化のグラフ

しかし、男性はその後50歳過ぎまで、体重にそれほど大きな変化はみられませんが、除脂肪量が徐々に減少しているいっぽうで、体脂肪量は増え続けています。

女性は、40歳過ぎまでは体重が微増しています。しかし、閉経期を迎える50歳を過ぎると、除脂肪量の減少によって体重は微減しているいっぽうで、男性と同じように体脂肪量はずっと増え続けたままです。

このように、男女ともに体脂肪量が増え続けていることが、実は問題なのです。なぜなら、体重が同じでも、体脂肪量が多ければ生活習慣病の発症のリスクが大きくなるからで、特に内臓脂肪が蓄積しやすい男性は要注意です。

はたして、自分の体脂肪量はどうなっているのかは、体脂肪率で知ることができます。体重に占める体脂肪量の比率をパーセントであらわしたものです。

標準とされる体脂肪率は、男性15~20%、女性20~25%で、男性は25%以上、女性は30%以上が肥満です。

腹筋が6つに割れ、前腕や上腕二頭筋(力こぶ)の血管が浮いて見える、あこがれの筋肉質の体形になるには、この体脂肪率を10%以下にまで落とさなければなりません。

今では、市販の体組成計を使えば、体脂肪率だけでなく、BMI(Body Mass Index:体格指数)、内臓脂肪レベル、筋肉量、基礎代謝量などなど、自分の体のことを簡単に知ることができます。体脂肪率の標準値をキープするようにして、生活習慣病の予防をはじめとして健康管理に役立ててみてはいかがでしょう。

(つづく)

※「女は筋肉 男は脂肪」(樋口満、集英社新書)より抜粋