糖尿病治療に有効とされる薬「GLP-1受容体作動薬」がインターネット上で「やせ薬」として紹介され、流通量が増えたために供給不足になり、本当に治療に必要な糖尿病の患者たちが使えないという問題が昨年、起こりました。オンライン診療のみで処方する病院もあり、保険適応外の自己負担で薬を購入できることから、「お金はかかるけどやせたい」という人の利用が増えたことが原因でした。

そんな中、2023年11月には、肥満治療薬「ウゴービ」が保険適応で使用できることになりました。ウゴービは、糖尿病治療薬「GLP-1受容体作動薬」と同様の成分の注射で、脳での食欲調節機構に作用し、胃の蠕動(ぜんどう)運動を抑制することで体重減少効果が期待できるというものです。いわゆる食欲抑制剤です。

食欲抑制剤には副作用と使用制限も

減量したいけれどうまくできず悩んでいる人には、飛びつきたい薬だと思いますが、副作用もあります。主なものとして、食欲減退、吐き気、下痢、便秘、嘔吐ですが、低血糖、急性膵炎、胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸などの重大な副作用が見られることもあります。

使用するには、下記のような制限があります。

・高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかを有した肥満症患者
 ただし、食事療法や運動療法を行っても十分な効果が得られず、「BMIが27以上で2つ以上の肥満に関連した健康障害がある」、もしくは「BMIが35以上」に限る

「肥満症に関連した健康障害」とは、耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞、非アルコール性脂肪性肝疾患、月経異常・不妊、閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、運動器疾患、肥満関連腎臓病というもので、安易な使用は推奨されていません。

専門家による継続的な栄養指導と

さらに、ウゴービを使用できる人として以下の条件が追加されています。

1、最大投与期間は68週まで
2、2カ月に1回以上は管理栄養士による栄養指導を受けること
3、常勤医師が日本循環器学会・日本糖尿病学会・日本内科学会の専門医を有すること
4、上記学会から教育研修施設として認定された施設であること

つまり、食事療法や運動療法を行っても効果がみられない肥満症の人に使用が許可され、この薬を処方されても、専門家の指導の下で食事療法や運動療法を継続していくことが条件とされています。処方できる施設も限定されており、総合病院や大学病院といった教育研究施設でないと処方できません。

このように、使用するには厳しい条件がついています。肥満でない人が美容目的で減量に使用するのは、さらに難しいことでしょう。

リバウンドを防ぐために、長期的に

私が栄養相談を受けている中でいつも残念に思うのは、「頑張って減量してもリバウンドしてしまう人が多いこと」です。生活習慣や食事が元に戻ると、体重も戻ってしまう人が多いですね。減った体重を維持するには食生活習慣を変えて継続していくことが必要です。減量は短期的なものではなく、長期的に取り組むものと理解しましょう。

減量を成功させるには、減量のメリットに集中し、デメリットには目をつぶることです。これまでのように、高カロリーなスイーツをおなかいっぱい食べられなくても、お酒を飲んだ後のラーメンを我慢することになったとしても、その分、体重は増えることはありません。体重計に乗って数値が少し減った時に得られる喜びを想像する、そんな小さなことを楽しみに変えれば、継続することができます。健康のため、長い目で頑張りましょう。

管理栄養士・今井久美