ご飯をよく噛んで食べると甘く感じるのは、唾液中にアミラーゼというでんぷんを分解する消化酵素があるからです。唾液には消化を助ける働きがあることはよく知られていますが、免疫に関わる抗体が含まれていることをご存じですか。

免疫には、大きく分けて自然免疫と獲得免疫があります。自然免疫とは、病原体など侵入してきた敵に真っ先に立ち向かうマクロファージなど、先天的に備わった最初に働く生体防御システムです。それに対し、反応するリンパ球だけが特異的に増殖し、決まった病原体にのみに働くのが獲得免疫です。リンパ球のB細胞が敵に合わせて抗体を作るため、少し時間はかかりますが、感染を繰り返すと抵抗力が強くなっていきます。

IgA抗体は病原体やウイルスの侵入を防御

抗体にはいろいろな種類がありますが、唾液中に多く含まれるのはIgA抗体です。IgAは体内で2番目に多い抗体で、病原体やウイルスの侵入を防御する役割を持ちます。コロナウイルスやインフルエンザウイルスの感染予防のために、唾液のIgA抗体を増やして免疫力をアップさせたいところです。

しかも、直接空気に触れる口や鼻は病原体が入る最前線であり、この入り口の免疫力を上げることが感染予防には重要です。唾液量は加齢とともに減少します。唾液量を増やすためには、よく噛むことのほか、次のことが大切です。

唾液量を増やすための方法

1、根菜など繊維の多い食材を使う
2、食材を大きく切る
3、食事中の水分を減らす(汁物などで流し込まない)
4、酸味のある酢や梅肉、果汁を料理に使う
5、ながら食べをやめ、食事に集中する
6、ガムを噛む
7、水分は食間に十分摂る

その他、昆布に含まれるアルギン酸や納豆のポリグルタミン酸も唾液の分泌を促進します。

食生活を整えて乳酸菌の効果を生かす

コロナとインフルエンザの同時流行が懸念されているこの冬、感染予防にヨーグルトや乳酸菌のPRを多く目にします。乳酸菌は唾液中のIgA抗体を増やす機能があるという報告がありますし、自然免疫にも作用し、ウイルスの増殖抑制効果があることも報告されています。ただし、それだけを摂っても効果は薄いので、毎日の食事のバランスを整え、食物繊維をしっかり摂ることが前提です。

また、IgA抗体を増やすためには、大腸で作られる短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸)も重要です。この短鎖脂肪酸は大腸の粘膜のエネルギーに使われますが、血管から吸収されて全身をめぐり、免疫細胞に作用してIgAをたくさん作るように働きかけます。酢酸は口から摂っても大腸までは届かないため、大腸で産生する必要があります。

まずは食生活を整え、その上でIgA抗体を増やす乳酸菌と短鎖脂肪酸を作るビフィズス菌や酪酸菌、ビフィズス菌を増やすオリゴ糖を摂ってIgA抗体を増やしていきましょう。同時に、IgA抗体を有効活用し、最前線で最強に病原体をブロックするためにも、ゆっくりよく噛んで食べましょう。

管理栄養士・今井久美