今春、38年ぶりのセンバツ出場を決めている日大三島(静岡)。3月1日に寮が新築され、食事も充実。チームの土台、新しい歴史を作るため、選手たちは毎日練習に励んでいる。

日曜日の朝は、料理教室の指導をされていた、という本田副部長の奥様、理紗さん(写真左下)手作りのおにぎりも。寮の食事も充実し、選手たちの毎日の楽しみは増えるばかり
日曜日の朝は、料理教室の指導をされていた、という本田副部長の奥様、理紗さん(写真左下)手作りのおにぎりも。寮の食事も充実し、選手たちの毎日の楽しみは増えるばかり

1から築きあげ、センバツ出場を手にした。報徳学園で優勝経験のある永田裕治監督(58)が00年に就任し、最初にとりかかったのは選手の意識改革だった。

「当初、ウチのチームには、甲子園に出ようという選手がいなかった。出るためにこの学校に来ていないんですね」。選手たちの下宿に行くと、補食として、女子マネジャーが作ったおにぎりが、あちらこちらに転がっていた。「マネジャーが一生懸命作ってくれたんやぞ。責任をもってやりなさい」と、選手たちに指導するところから始まった。「甲子園には行きたい、と言う。でも、行くためにはどうしたらいいのか。それがわからなかったんですね」。

まずはグラウンドで一生懸命頑張る姿勢、目的意識を植え付けた。短い時間で練習を工夫し質を高め、チーム力も高めた。「グラウンドが9割、食事が1割。グラウンドができなくて食事ばかりやっても仕方ないですから」。目的をもった集団になれば、野球も食事も変わる。「いろいろやりましたが、まずは栄養バランスよりも、食べさせることが1番。そのためにも、好きなものを食べさせるようにしています」。

ご飯、みそ汁はおかわり自由。自主性に任せられているが、積極的にご飯を食べるようになった
ご飯、みそ汁はおかわり自由。自主性に任せられているが、積極的にご飯を食べるようになった

それは、永田監督の経験豊富な指導に裏付けされていた。17年、高校ジャパンの監督を務めていた時だった。管理栄養士の大前恵さんの講習動画を選手たちに見せた時。「練習で疲れているから、見ないだろうなぁと思っていたら、驚くほど選手が食い付いて見ていてビックリしたんです」。鈴木誠也、巨人菅野、最後はエンゼルス大谷翔平らの食事への取り組みが紹介されていた。「ジャパンの選手はプロに行きたい選手ばかりだからでしょうね」。

その最たるが、当時、永田監督の教え子だった広島小園だった。「あれだけ細いやつが食の大切さを知り、取り組みが変わった。明らかに1年間で体つきが変わりました」。目的意識が選手を変える。しかし、急がせても選手はついてこない。選手の歩幅に合わせ、ゆっくりとともに歩く。だから、「まずは好きなものを食べなさい」なのだ。

新しい寮で、選手も食事に積極的に

チームを取り巻く環境も変化した。新築された寮では、食事も全面的にバックアップされるようになった。早速、10人が入寮(4月からは新1年生14人が入寮予定)。平日の朝、晩は寮の食堂で食事をとっている。食堂は業者に委託され、メニューは栄養士が作成。寮の管理人を務める本田怜央副部長(32)は「夜はお肉とか、ガッツリ食べられるおかず。コロッケ、カレー、ヒレカツ、豚しょうが焼き、麻婆丼など、ご飯がすすむおかずにしてもらっています」と、業者にリクエスト。野菜も、千切り大根、ブロッコリー大根サラダ、もやしナムルなど、選手が食べやすく栄養をとれるよう、工夫されている。

この日のメニューは、豆腐ハンバーグ野菜あんかけ、ひじき煮、薩摩甘芋、みそ汁。野菜がたくさんで栄養満点。選手にも大好評だった
この日のメニューは、豆腐ハンバーグ野菜あんかけ、ひじき煮、薩摩甘芋、みそ汁。野菜がたくさんで栄養満点。選手にも大好評だった

選手たちの食事への意欲も積極的になった。寮生活が始まり約1週間。「業者の方への感謝を込めて、食事は残さない」を合言葉に、選手たちは毎食、どんぶりで2~3杯は残さずたいらげる。指導者の目の届くところで食事を徹底。「食事もトレーニングのひとつだぞ」。永田監督が日ごろから口にしてきた言葉に、積極的に取り組む選手たちの姿が目にうつる。本田副部長は「食事もトレーニングのひとつ。新しい寮ができて管理をしながら、食事に関しては食べさせていきたいですね」と意気込んだ。

家庭のようなコミュニケーションで大きく成長

食事は永田監督と選手とのコミュニケーションの場にもなっている。土曜日と日曜日の夕食は、気分転換も兼ね、学校近くの定食屋さんと契約を結び、食事に出掛け、好きなものを注文する(現在はコロナ禍でテークアウト)。ハンバーグ、チキン、唐揚げ。「選手たちに、食事を飽きさせないために」という永田監督の気遣い。昨年は、1~2度、永田監督も同席し選手たちと一緒に食事をとった。「ちゃんと勉強、頑張っているか?」。普段、グラウンドでは聞けない何げない会話が飛び交い、そこはまるで家庭の食卓そのもの。食事を通し、父と子のような会話でコミュニケーションを深めている。

選手たちの体はみるみる大きく成長している。永田監督は「今回、甲子園に行くことがひとつの土台になって、一つ勝ったら、新しい歴史ができると思っています」と期待を込める。まだ始まったばかり。「現在進行形。完全なingのチームですね」と、監督歴28年のベテラン監督も「指導者として新たな発見といいますか。楽しいですよ」。そう言って笑う。生き生きと輝いて見えた【保坂淑子】