競技レベルの高い選手は、チームメイトとの人間関係に関するストレスに対して、その原因を建設的に捉えて解決しようと努力する傾向がある一方、平均的な競技レベルの選手はストレスの原因ではなく、ストレスによってもたらされる自分の感情をコントロールすることに重点を置いて対処する傾向があるとの研究結果が報告された。また、競技レベルの高い選手は平均的な選手と比較して、チームとしての自信の程度を示す「集団効力感」が高いことも分かった。

筑波大などの研究グループによるもので、これらの結果からチームの自信向上や自己の成⻑のためには、問題の解決に取り組む行動が重要で、今後、心理的ストレスに対する認知・対処プロセスについてより深く理解することができれば、直面する問題に対して柔軟に対応する心理サポート方法の開発につながるとしている。

(写真はイメージ)
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どれだけ集団効力感を高められるか

チーム内での人間関係は心理的ストレスの1つで、スポーツ活動やチームのパフォーマンスに悪影響を及ぼすものとされていたが、近年では心理的ストレスは必ずしもネガティブなものではなく、それに適応することによって精神的成⻑が促されることが分かってきた。

また、チームとして「私たちはできる」といった自信を表す概念を「集団効力感」といい、努力や忍耐力、パフォーマンスとも関係している。チーム作りにおいては、日々の活動でどれだけ集団効力感を高められるかが重要であるとされているが、この集団効力感に影響を及ぼす要因に、チーム内での人間関係があり、スポーツ活動における心理的ストレスの1つにもなっている。

都県リーグとプレミアリーグの高校生332人

そこで筑波大学体育系の中山雅雄教授、東京成徳大学健康・スポーツ心理学科の夏原隆之准教授らの研究グループは、高校生サッカー選手の協力を得て、①チームとしての自信の程度、②人間関係に対するストレスレベル、③人間関係に関するストレスをどのように捉えているか、④それに対してどのように対処するか、⑤ストレス反応、の5項目について、質問紙を用いた調査を行った。

心理的ストレスのトランスアクションモデルに基づいて、U-18サッカーリーグの都県リーグに参加する高校サッカー部(5チーム)の高校生選手332人と最上位リーグ(プレミアリーグ)に参加するJリーグユースチーム(7チーム)所属の高校生選手206人、計538人の高校生サッカー選手が対象。都県リーグを平均的な競技レベル、プレミアリーグを高い競技レベルと定めた上で、競技レベルによってどのような違いがあるのかを分析した。

競技レベル高い選手の方がストレスレベル高い

その結果、競技レベルの高い選手は平均的な選手よりも人間関係に関するストレスレベルが高く、高い集団効力感を持っていた。集団効力感の高い集団は、困難に対する耐性があり、各メンバーが強い使命感を持って問題の解決に取り組み、良い成果を出すために協力し合うという特徴がある。このことから競技レベルの高い選手は人間関係のストレスに直面した時に、その解決に向けて団結する機運を生み出し、集団効力感の高まりに帰結した可能性が考えられる。

人間関係ストレッサー(ストレスの原因)に対処する過程のそれぞれ(認知的評価、対処行動、ストレス反応)においても、競技レベルによる特徴的な違いが示された。競技レベルの高い選手は、問題そのものを自分でコントロールすることが可能であると捉え、積極的に問題解決に取り組む行動(問題焦点型行動)を選択する傾向が見られた一方、平均的な選手は、ストレスの原因そのものに対してではなく、それによってもたらされる反応(自分の感情)をコントロールすることに重点を置いてストレスに対処しようとする、情動焦点型行動をとる傾向にあることが明らかになった。

ストレス対処法を身に付けることが重要

一般的に、人間関係のような自分でコントロールすることが難しい心理的ストレスに対しては、情動焦点型の対処法がとられやすいが、それによって問題の原因が解決するわけではないため、絶えずその心理的ストレスにさらされることになる。対して問題焦点型の対処法は、問題そのものを解消することにつながるため、より効果的なストレス対処行動であると考えられる。チームスポーツにおいて人間関係は避けられない心理的ストレッサーの1つであることから、この研究結果は競技レベルに関係なく、すべての選手にとって情動焦点型と問題焦点型の両方の対処スキルを身につけることが重要だとしている。

研究グループは、ストレスの経験からストレス反応の表出に至るまでの心理的ストレス過程における各要因間の因果関係や、それらがチームの自信の程度に及ぼす影響を明らかにするべく、研究を進めているという。⻘少年の競技者が人間関係などの心理的ストレスに対して、自らがその場の状況に応じて原因そのものを解決したり、考え方や感情の持ち方を工夫して上手くコントロールするなど、問題に柔軟に対処するスキル習得の方法を明らかにできれば、指導者によるチームマネジメントにおいて、競技者に対する適切なコーチングに資するとも期待している。心理的ストレス過程をチームの一体感や自信との関係から深く理解することで、チームビルディングにつながるストレスマネジメントプログラムの開発を目指すともしている。