各界のプロフェッショナルの子ども時代や競技との出会いなどに迫る「プロに聞く」。期待の若手右腕・巨人直江大輔投手(20)が、自らの人生を振り返った。父の背中を追って野球を始めた小学生時代。初の全国大会出場も悔いが残った中学生時代。甲子園のマウンドに立つ喜びと、その舞台を逃した悔しさを経験した高校生時代。悔しさをバネに、目標を曲げないことの大切さを語った。

2020年8月23日、プロ2年目の広島戦で初先発した巨人直江
2020年8月23日、プロ2年目の広島戦で初先発した巨人直江

未来への希望あふれる全ての子どもたちへ-。夢追う少年時代を過ごした直江には、伝えたいことがある。「野球をやってる人、やってない人関係なしに、それぞれ自分が正しいと思ったことをしっかりやっていけば、その先は何か絶対あると思う。そこは曲げずに何か目標を持ってやってほしい」。悔しい思いをエネルギーに変えてきたからこそ、簡単にくじけない、諦めないことの重要さを強調した。

野球との出会いは必然だった。きっかけは、85年夏、86年春夏と松商学園(長野)のエースとして3度甲子園に出場した父晃さんの存在だ。その背中を追い、直江は小学校3年生で本格的に野球を始めた。父とは、キャッチボールで日々、特訓した。家の前や近くの小学校で約1時間。原点ともいえる時間だ。「フォームを指摘されて、そこを直したらバランスが良くなったりした」と偉大さを感じた。バランスのいい、お手本のような投球フォームは、父によく似ている。「特別まねはしてないけど、教えられたことが身に付いてそうなったのかな」とうれしそうだった。

松商学園2年夏、甲子園を決めた決勝のマウンドでピンチを切り抜ける力投
松商学園2年夏、甲子園を決めた決勝のマウンドでピンチを切り抜ける力投

中学では中野シニアで硬式野球の道を選んだ。走り込みで体をいじめ抜き、中3時にはエースとして人生初の全国大会にも出場。しかし、一番印象に残っているのは、喜びや楽しさよりも、自身の投球への悔しさだ。「小学校の時に全国大会出たことがなくて。中学で初めて出られた。でも僕が投げたんですけど、全然ダメで。悔しかった。そういう意味で記憶に残ってます」と振り返った。課題ばかりの投球に「もっとちゃんとやろうと思った」と心を入れ替えるきっかけになった。

高校は父と同じ松商学園に進学した。周囲からは「あの直江晃の息子」という目で見られる。エースにならなきゃいけないという重圧は「多少はありました」と認めた。それでもプレッシャーをはねのけ1年秋からベンチ入り。2年夏には背番号11を背負い、当時最速142キロの直球と安定した制球力を武器に活躍。県大会決勝では、2番手として3回2/3を1安打無失点。マウンドで甲子園出場を決めた。「野球をやっていて良かった」と感じた瞬間だった。甲子園は格別で「高校生の間だけですし、プロ野球選手でも行ってなかったりする。高校時代には本当にそこしか考えてなかった。父にもいいところを見せられたかな」と憧れの背中に1歩近づいた。

松商学園3年夏、2年連続甲子園の夢が消え号泣(右)
松商学園3年夏、2年連続甲子園の夢が消え号泣(右)

だからこそ、1年後、甲子園を逃した悔しさは忘れられない。ようやく父と同じ「1」を背負った3年夏。県大会準々決勝でノーシードの岡谷南に敗れ、もう1度聖地のマウンドに立つ夢はかなわなかった。「僕自身も悔しかったんですけど、それより同級生に甲子園を体験してもらいたかった。行ってみて感じるものがある。それは行った人にしか分からない」。エースとして、仲間を甲子園に連れて行けなかったことに責任を感じた。

悔しい敗戦を喫してから3カ月後の18年10月、巨人にドラフト3位で指名され、新たな人生のスタートを切った。高卒2年目の昨季は3試合に先発も、あと1歩のところで初勝利を逃してきた。ただ「1年目よりは、確実にいい1年を送れた」と振り返るように、着実に階段を上がっている。今があるのは父の背中を追って甲子園を目指した日々があってこそ。「報われた人にしか分からないかもしれないですけど、最後まで目標は曲げずに取り組んでほしい。それくらいやる価値はある」。白球を追いかける子どもたちへ、信じた道を突き進むことの大事さを強調した。【小早川宗一郎】

必死に白球を追い続けた巨人直江大輔(2020年2月13日撮影)
必死に白球を追い続けた巨人直江大輔(2020年2月13日撮影)

◆直江大輔(なおえ・だいすけ)2000年(平12)6月20日生まれ、長野市出身。柳町中時代は中野シニアで投手。松商学園では1年秋からベンチ入りし、2年夏に甲子園出場。18年ドラフト3位で巨人入団。2年目の20年、8月23日広島戦でプロ初登板初先発。同年は3試合で0勝0敗、防御率3・00。昨年10月に腰を手術し、今季は育成契約からスタート。184センチ、82キロ。右投げ右打ち。

(2021年2月13日、ニッカンスポーツ・コム掲載)