<医療ライター・しんどうとも「メンタル回復法」(3)>

現代の複合的、多様な仕事に追い立てられる、いわゆるマルチタスク環境に対し脳は疲労し続けている。「心と身体の正しい休め方」の著者で禅僧、精神科・心療内科医の川野泰周さんはこう話す。

「マルチタスクの環境で脳が疲労するからといって、いまの仕事の仕方を変えようとしてもすぐには難しいのが現状です。そこで、生活の一場面、わずかな時間を使って、デフォルトモードネットワーク(DMN)を穏やかにし、脳の活動を沈静化しようというのが、『マインドフルネス』なのです」

DMNは、脳の中心部分の前後、マルチタスクな情報を処理すると活性化する脳の働きをいう。エネルギー効率の悪いDMNの使い過ぎが脳の疲労を大きくする。

「マインドフルネス」は精神科領域にとどまらず、ビジネス界でも知られる考え方であり実践といわれている。アメリカで80年代に体系化されたというそれは、スティーブ・ジョブズなどの有名人が実践したことにより一気に知名度が高まった。

「マインドフルネスは脳の疲れを取るのに適した方法として注目されていますが、マインドフルネスの瞑想(めいそう)を適切にできている方は、DMNの2つの脳の部分の活動が落ち着くことが証明されていて、その結果、疲れが軽減していく。たとえ1~2分ほどの習慣であってもいい。1時間もの瞑想をしなくても脳の疲れはリセットし、回復することがわかってきました」と川野さんは話す。

このマインドフルネス、実は2500年も前から行われてきた仏教の実践である瞑想と相通ずるといわれる。むしろ仏教の考え方を手本にしているとさえ言えるのだ。

(2020年10月16日、ニッカンスポーツ・コム掲載)