プロ女子選手の男子サッカーチームでの挑戦が始まった。神奈川県2部の社会人チーム「はやぶさイレブン」に加入した元女子日本代表FW永里優季(33)が、18日の第3節山王FC戦の後半41分から途中出場。日本協会の第1種(一般・大学)に登録された女子プロ選手として初の公式戦出場となった。同ロスタイムには自身のパスから実兄のFW永里源気(34)の得点も演出。男子選手と対等にプレーし、3-1の勝利に貢献した。

ワールドカップ(W杯)制覇も経験した女子のトップ選手が男子の中でも変わらぬ存在感を発揮できるのか。性差を考慮したトレーニングなどを研究する順天堂大女性スポーツ研究センターの鯉川なつえ副センター長に話を聞き、永里活躍の可能性を探った。

順大女性スポーツ研究センターの鯉川なつえ副センター長

男子の社会人チームで女子選手がプレーする。普段から男女のアスリートをさまざまな観点から研究する鯉川氏は永里が活躍できる可能性は高いとし、「彼女とチームの両方に相乗効果のある良い挑戦になるのではないか」と語った。

9月23日、公開練習で軽快な動きを見せるはやぶさイレブンの永里優季(中央)

まず鯉川氏が着目したのはボールを足で蹴って行うサッカーの競技特性。一般的に筋力は男性の方が強いとされるが、それは身長の高い男性の方が太くて長い筋繊維を多く持っているから。しかし、鯉川氏によると、もともと筋肉が1平方センチメートルあたりに発揮できる筋力(固有筋力)は男女でほぼ同等。そして20歳の日本人男女のデータを比べると、腰回りや下肢の周径囲はほぼ同じで、脂肪を除いた除脂肪体重あたりの脚筋力は女性の方が上回るという研究記録もあるという。「筋力でみると、足を使う競技での男女差は縮まってくる。サッカーはテニスなどよりも差は小さいと言えます」。体を鍛えたアスリートではより顕著だといい、精密なシュート技術のある永里が足を振れば、男子顔負けのゴールを決める可能性も低くはないと言える。

加えて永里は身長168センチで、20歳以上の日本人男性の平均とほぼ同じだ。鯉川氏は「身長や体脂肪率が同じであれば絶対的な能力に差は出てこないのではないか」と分析。これは体力的な部分を指す有酸素性作業能力にも言えるとし「女性アスリートの最大酸素摂取量(VO2max)は一般人男性より高いという研究結果もある」。神奈川県2部のほとんどのチームは、普段は仕事をしている社会人が中心。後半になると運動量がガクッと落ちるチームも少なくない。はやぶさイレブンの阿部敏之監督は永里の起用法について「相手が疲れてきた試合途中から出て、シンプルに周りを使いながらプレーできたら」と話しており、女子代表国際Aマッチ通算132試合58得点を誇るストライカーの途中投入は男子相手にも脅威と言えそうだ。

9月10日、はやぶさイレブン入団会見でユニホームを披露する永里

こうしたデータに加え、鯉川氏は加入会見などでの永里の言葉にも注目。「フィジカルの部分はどうしても劣ると思う」「男子がいる中でやれば、もう少し自分の良さが出るんじゃないか」というコメントに「劣っている部分や、メリット、デメリットを理解している点が素晴らしい」と語った。実兄の永里源気が所属している縁もあったとはいえ、神奈川県2部というレベル選択も正しかったとし、「一般的に女子は男子と練習すると高いレベルにいけるが、実力が大きくかけ離れすぎていてもダメ」。男子のパススピードやテンポに慣れることで動体視力なども向上するとし「女子チームに戻った後もプラスになるのでは」と選手としてのレベルアップにも効果的だとした。

鯉川氏は考えられる懸念事項に「性差が大きい動きだと思います」と空中戦の競り合いを挙げた。それでも「前例がないことですし、ぜひ試合も見てみたい。9月にJ1最年長出場記録を更新した三浦知良選手と同じで、夢と希望を与えることはプロとして非常に重要なことだと思います。頑張ってほしい」とエールで締めくくった。【松尾幸之介】

(2020年10月18日、ニッカンスポーツ・コム掲載)