新型コロナウイルス感染拡大の影響で史上初の中止となった全国高校総合体育大会(インターハイ)の代替救済策として、フェンシングの全国オープン大会「HighSchoolJapanCup2020」の開催が計画されていることが3日、実行委員会から発表された。プロジェクトが成立すれば、インターハイ実施競技では初となる全国大会の代替開催が実現する。

しかも、不遇の高校生のため開催を目指しているのはオリンピック(五輪)経験者だ。フェンシング日本代表として五輪に出場した39人と、陸上の末続慎吾ら他競技の五輪アスリート10人の計49人が賛同。フェンシング日本代表には、現在の選手会長である男子エペの見延和靖や、ロンドン五輪の男子フルーレ団体で銀メダルを獲得した三宅諒ら現役選手も含まれている。特に高校3年生への思いを集めた任意団体が、集大成の場を用意すべく独自に開催の可能性を探っていた。

「HighSchoolJapanCup2020」のイメージ画像(外部提供)

大会の時期は、生徒の安全確保を最優先に感染の第2波、第3波も警戒しながら3つの選択肢で検討。❶9月25~27日❷11~12月❸開催断念、を政府や自治体によるスポーツイベント自粛要請の解除状況に応じ、段階的に判断する。

開催できれば、フェンシングの個人戦全種目(フルーレ、エペ、サーブル)を実施する。❶の場合、会場は神奈川・星槎レイクアリーナ箱根で調整中。出場を希望する高校3年生は全員参加でき、参加費も無料だ。1、2年生にもチャンスがあり、全体で300~500人の出場を見込んでいる。ただし、無観客かつ種目ごとに試合日を変えることで密状態が生まれないよう配慮される。

大会長は千田健一氏。幻の1980年モスクワ五輪代表だった。ボイコットで夢を奪われ「勝負さえさせてもらえなかった」経験を糧に高校教員に。「フェンシングで得た経験は財産」を指導哲学として教え子をインターハイで6度の団体優勝に導き、五輪メダリストも輩出した。「これまで生徒たちの頑張りを見てきたからこそ、インターハイはじめ、さまざまな大会の中止は残念。何とか最後の発表の場をつくってあげたい」と強く願っている。

実行委員会のプロジェクトリーダーを務める江村宏二氏は、88年ソウル五輪の男子フルーレ代表。08年北京五輪では日本代表監督を務めた。「(五輪に出場した)歴代選手は、インターハイをへて世界の舞台とつながったことで、人生が大きく変わったのです」。今夏、出身地の大分県で開催されるはずだったインターハイの中止を受けて立ち上がり「我々の手で、これまでの練習の成果を発揮できる高校生活最後の舞台を準備したい」と、短期間で計49人もの五輪経験者の賛同を得た。

その後、予選を実施できない現状を踏まえて考案したのが、全国規模のオープン大会だった。「インターハイの代替開催を歴代日本代表選手の手で開催したい!」を合言葉に、非営利プロジェクトとしてスポンサーを募り、クラウドファンディングプラットフォームの「CAMPFIRE」も通じて資金調達を目指す。

あらためて、最も重視しているのは安全面。フェンシングマスクの内側に取り付ける、口元をガードするインナー飛沫(ひまつ)ガードを全選手に配布。接触も避けるため、剣などの安全性確認をクラウドサーバーに記録する用具検査NFCカードシステムも導入する。検温用サーモグラフィー設置などICT(情報通信技術)を多用して感染防止を徹底する。

感染状況によっては強行しない柔軟性も持ちつつ、実現に至れば、日本一を争う場が全競技に先駆けて用意される。大学への推薦など、進路を決める際の重要参考資料にもなりそうだ。同じ葛藤を抱える他競技のモデルケースとしても進展が注目される。【木下淳】

末続慎吾氏

◆趣旨に賛同したオリンピック(五輪)経験者の主なコメント
【小澤嗣央】(フェンシング 60年ローマ)
「若いフェンサーの皆さん。私は現在85歳の老フェンサーですが、あなた方と同じように若く夢多い時代がありました。25歳の時、五輪に参加したことで私の『人生観』は大きく変わり、以後、長いビジネスの社会を乗り切って今に至っています。皆さん、ぜひ日本代表として五輪に参加してください。五輪で世界の強豪と戦うことを『夢』見て精進を続けてください。あなたの努力は必ず報われる日がきます」

【徳南堅太】(フェンシング 16年リオデジャネイロ)
「『全国制覇』。私の出身校のチーム目標でした。高校で出合ったフェンシングですが、結局その目標には届きませんでした。今も現役を続けていられるのは高校の時の『悔しさ』があったからです。私が体験した『悔しさ』と、大会自体が消滅してしまった現在の高校生たちの『悔しさ』は全くの別物で比べることができませんが、青春を部活動にささげてきた1人として、何かしてあげたい気持ちでいっぱいです。青春を全力でぶつけられるような意味のある大会を開催し、高校生たちを招待してあげたいです」

【末続慎吾】(陸上 00年シドニー、04年アテネ、08年北京=銀メダル)
「インターハイは高校生にとって夢であり、私たちオリンピアンにとっては、その後の夢へのステップでした。その意味でも、インターハイは生涯記憶に残るものです。その中止が、今後の人生にどう影響するか僕らでは計り知れません。だからこそ、高校生のかけがえのない時間に、しかるべき場所や思い出をつくってあげることは、これまでにない未来をつくることと同じではないでしょうか。一生の思い出になるような高校生への『メモリーハイ』を実現できることを心から祈っています」

【池谷幸雄】(体操 88年ソウル=銅メダル、92年バルセロナ=銀メダル)
「私にとってインターハイは、器械体操競技人生の中でも、とても思い出深い大会です。2、3年で個人総合優勝し、多くの人の注目を浴びるきっかけになりました。この競技で生きていく上での大きな土台にもなり、今の自分が存在します。今回その大会の中止が決まり、特に高校3年生にとっては本当に残念なことだと思っています。他競技ではありますが、多くのオリンピアンの気持ちで、皆さんのこれまでの頑張りが披露できる場を提供できれば、賛同者の1人として、とてもうれしく思います」

池谷幸雄氏

※クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」プロジェクトURLはhttps://camp-fire.jp/projects/view/287421

(2020年6月3日、ニッカンスポーツ・コム掲載)