J2大宮アルディージャの「手話応援デー」が、Jリーグ全56クラブのホームタウン・社会連携(シャレン!)活動の中で、社会貢献など際立つ活動を表彰する「2020 Jリーグシャレン! アウォーズ」でソーシャルチャレンジャー賞を受賞した。

今季から創設された賞で、06年から続く大宮の手話を啓発するこの活動は、一般投票で最多得票を記録しての受賞となった。クラブのパートナー営業グループ、池田正人氏に「手話応援デー」の取り組みと思いを聞いた。

大宮サポーター

全56クラブの年間計2万5000回を超えるホームタウン活動の中から「最も社会課題解決にチャレンジしている活動」と評価されての受賞だ。スタッフとして活動を支える池田氏は「率直にうれしいですね。外部の方々に、知ってもらった上で認めてもらったのが1番大きいと思います」と率直に喜びを口にした。

今や大宮サポーターに幅広く認知され、健常者も障がい者も「手話」で大宮のチャント(応援歌)を表現する「手話応援デー」。その始まりは06年にさかのぼる。

発案者は大宮の熱心なサポーターで、ビル管理会社・毎日興業の故田部井功社長だった。田部井社長は05年、知的障がいのある人たちの競技会「スペシャルオリンピックス・長野大会」の聖火リレーでさいたまの実行委員を担当し、その後に「障がいがある人にJリーグの応援を楽しんでもらうアイデアはないか」と、特別支援学校大宮ろう学園で教師を務める江藤千恵子氏に相談。江藤氏が「応援に手話を取り入れては」とアイデアを出し始まった。

第1回は浦和駒場スタジアムでの横浜F・マリノス戦、約80人が参加した。当時は今ほどクラブとの協力関係が確立されておらず、複数のサポーター団体による応援の統制も取れていなかった。「聴覚障がいの方の応援がずれてしまうという」という厳しい意見があり、「何をしているんだ」との批判もあった。だが田部井氏やクラブはあきらめなかった。

3年の準備期間を経て「手話応援デー・実行委員会」を立ち上げ、サポーターも実行委員会に入り「やりたいこと」「やれること」をアイデアとして出し合い「ノーマライゼーション」(健常者も障がい者も一緒に応援する)の実現に動き始めた。

他クラブのサポーター親子から届いた手紙

10年8月、ジュビロ磐田戦で第2回を開催。350人の参加者がスタッフのリードの下で、大宮の応援歌「愛してるぜ We are ORANGE」を手話で表現した。スタジアムの一角だけの手話応援に、サポーターや実行委員会から「スタジアム全体で手話応援をしてもらいたい」との声が上がった。

14年からは手話指導ができるスタッフが加わり、ホームのゴール裏に手話応援を学ぶ啓発ブースを設置した。一般チケット購入者もブースで手話を学び、理解は広がった。今や「愛してるぜ」の手話サインは大宮サポーターの大半が知っている。昨年6月の京都サンガ戦は約1900人が参加。5試合ぶりの勝利がかかった試合で、応援団は大宮のチャントを連発。一体感ある手話応援と声援が勝利を後押しした。

池田氏は17年に山梨から「手話応援デー(鳥栖戦)」に参加した他クラブのサポーター男性からの手紙が忘れられない。その男性は、大宮サポーターの親戚から手話応援デーの存在を聞き、9歳の聴覚障がいの娘とスタジアムを訪れた。

手話をリードするスタッフがいて試合中の手話通訳に感服したこと、子供が「愛してるぜ」の手話を両手で突き上げながら飛び跳ねていたことなどがつづられ「娘から、今日はとても楽しかった、パパ、ありがとう、と言われました。私ども親子にとって宝物の一生の思い出になりました」と感謝が記されていた。他クラブにも活動の力が伝わった証でもあった。

クラブとしても、09年から選手が特別支援学校を訪問している。現在はMF大山啓輔が中心になり、手話で自己紹介をするなど子供たちと交流を深めている。

大山は活動を通し「活動以前まで、障がいを持った方と対面すると僕自身が、戸惑ってしまうことがあった。活動を通して、手話が完璧でなくても、気持ちを分かろうという心の持ち方で何とでもなると分かってきた。街でもだれか困っていたときに、アクションが起こせる気持ちの自信を持つことができた」と振り返る。

大宮サポーター

紆余(うよ)曲折を経て、大きな形へと進化している「手話応援デー」。池田氏は「今は動画配信ができるので、選手の個人チャントを手話で学ぶ機会も増やしていければ」と新たな目標を掲げる。今後の活動に「継続していくことが大事。この取り組みに支援をしていただける毎日興業の協力も必要ですし、実行委員会を継続していくためには、人の部分も必要。手話応援のマインドが、人が変わっても継続していくようにしていかなくてはいけない」と力を込める。 今回の受賞で「手話応援」がクラブの枠を超え、幅広く認知されるきっかけになった。

池田氏は、他クラブの社会活動にも学ぶことが多いことを挙げ「手話応援だけでなく、全クラブのホームタウン活動が、夕方のニュースに取り上げられるぐらいになって、知らない人にも伝えられたら」と、Jクラブのシャレンの発展を願っている。【岩田千代巳】

(2020年5月22日、ニッカンスポーツ・コム掲載)