<ラグビー流 Education(7)>

元日本代表の今泉清氏(52)と、名門・桐蔭学園(神奈川)を率いる藤原秀之監督(51)という“レジェンド”2人が、子育て世代や指導者へメッセージを送ります。今回は「失敗」に対してポジティブに向き合い、失敗を恐れずに挑戦することについて提言です。

失敗させない親が増えている

大小の差こそあれ、誰でも失敗やミスはする。スポーツやジュニア世代なら、なおさら「勝率100%」「完璧」は難しい。そんな中、今泉氏は失敗に対し、本人も周囲も否定的にならないでほしいと強調する。

今泉 「失敗」は「敗(負け)を失う(なくす)」です。つまり失敗すると、負けなくなるんです。失敗は負けないために必要なもの。そのくらい前向きでいいと思います。

いわゆる「失敗は成功のもと」。今泉氏は、大人も子どもも失敗を恐れて、新たなチャレンジをしない最近の風潮を憂慮する。

今泉 子どもには「大人に怒られたくない」という気持ちがある。スポーツを諦めてしまう場合、その競技を嫌いになったのではなく、指導者や家族に怒られたり、怒鳴られたことがきっかけになってしまうことが多いです。でも、潜在的には「うまくなりたい」「必要とされたい」「役に立ちたい」「認められたい」という欲求がある。

むしろ大人が「失敗を怖がらなくていい」と背中を押してあげることが、求められるだろう。

今泉 大事なのは「なぜ失敗したか?」を考えることでしょう。いわゆる「改善」ですね。子どもが「ダメだ。できない」と言ったら、「どうしてできないと思うの?」「今までの方法だとできないんだよね? じゃあ、別の方法を一緒に考えようよ」と。

ともに新たなアプローチ、改善への道を探る。目的のためには何が必要かを突き詰め、新しい目標を設定していく。

今泉 「いつまでに、何を、どのように、どうすればいいか」。いわゆる5W1Hのように、具体的に話し合ってみます。

大事なのは最終的に本人が決めること。

今泉 大人も子どもも、人が決めたことには消極的でも、自分で決めたことには積極的に取り組む。

ホンダの創業者である故本田宗一郎氏は「成功は99%の失敗に支えられた1%である」とも話した。

今泉 ホンダの「チャレンジ・スピリット」は、「1度失敗したから失敗なのではなく、できるまでやり続ける」から生まれたのだとも聞いています。「チャレンジする」は、ただ試すことではなく、本当は「できるまでやる」ということだと思います。

失敗を体験させる意味

少子化や生活が便利になった影響か、ジュニア世代に「成功体験しかさせたがらない大人」が増えたと藤原氏は言う。そこで、あえて「失敗体験もさせた方がいい」と提言する。

藤原 結果的にその方が人生が豊かになると思います。失敗もすべて財産になっていく。若い時にしかできない経験がある。失敗を乗り越える力もつく。

社会人になり、年齢を重ねるごとに失敗は許されなくなるからこそ、ジュニア世代には失敗を恐れずにチャレンジしてほしいと。 藤原 失敗することは悪いことじゃないですよ。ただ、失敗の仕方がある。何も準備しないで失敗したのか、準備をすべてしたけど届かなかったのか。

自分なりに考え、準備をして挑戦した結果の失敗には評価も生まれる。

藤原 プロセスを大事にしてほしいですね。成功も失敗も必ず振り返ることが大切でしょう。大人になったら、結果しか求められない場面にも出会うでしょうから、プロセスを楽しめるのも若いうちです。

◆今泉清(いまいずみ・きよし)1967年(昭42)生まれ、大分市出身。6歳でラグビーを始め、大分舞鶴高から早大に進み、主にFBとしてプレースキックなどで大学選手権2回優勝、87年度日本選手権優勝に貢献。ニュージーランド留学後、サントリー入り。95年W杯日本代表、キャップ8。01年に引退した後は早大などの指導、日刊スポーツなどでの評論・解説、講演など幅広く活躍。

◆藤原秀之(ふじわら・ひでゆき)1968年(昭43)東京生まれ。大東大第一高でラグビーを始め、85年度全国選手権でWTBとして優勝。日体大に進む。卒業後の90年に桐蔭学園高で保健体育の教員、ラグビー部のコーチとなり、02年から監督に。同部は昨年度まで全国選手権17度出場。決勝進出6回、10年度優勝時のメンバーに日本代表の松島幸太朗ら。今日17日には全国高校ラグビー神奈川県大会決勝で東海大相模と対戦する。

(2019年11月17日、ニッカンスポーツ・コム掲載)