<新百合ヶ丘総合病院発達神経学センター高橋孝雄センター長に聞く>

新学年、新学期が始まりました。長期の休み明けは子どもが不安定になりやすい時期です。特に進学・進級が関わる春休み明けは、学校環境や友人関係が大きく変わり、子どもにストレスがかかることもあります。

この時期、わが子が新しい環境になじめるかどうか、心配している保護者も少なくありません。また、そういった方の中には内心「うちの子の発達に不安が」と思っておられる方もいるかもしれません。

現在は情報があふれ、わが子が他の子と違うことが個性というプラスよりも、不安材料、マイナス要因として気になる状況です。

ネット情報で自己判断、周囲からの指摘に悩まず

ADHD(注意欠如多動症)や自閉スペクトラム症などの情報もネットを通じて多く発信されるようになったため、「うちの子に当てはまる。もしかしたら…」と自己判断したり、「グレーゾーン」という言葉が気になったり。また、園や学校の担当者や知り合いから「お宅のお子さん、“発達障害”なのでは」と指摘され、悩むこともあるようです。

「神経発達症」について話す高橋センター長
「神経発達症」について話す高橋センター長

「発達や神経の症状で不安なら、専門医に相談してみては」。そう話すのは、40年以上小児医療に携わり、約4万人以上の子どもとその家族を診てきた新百合ヶ丘総合病院発達神経学センター(神奈川県)の高橋孝雄センター長です。「症状が曖昧で軽い場合、専門医に相談すべきか迷うかもしれません。でも、相談すれば安心できることも多いものです。どうか遠慮なく」と“念のため受診”を勧めます。

障害ではなく「特性」や「体質」と捉えて

最近は「発達障害」は「神経発達症」と呼ばれます。また、その内容も時代とともに変化しており、現在は注意欠如・多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)、限局性学習症(LD)などよく知られているもの以外に、知的発達の遅れ(知的発達症)、運動の苦手さ(発達性協調運動症)など、発達に関わる子ども特性が広く含まれています。

高橋センター長はこのように説明します。

「ある場面、状況での脳の使い方、情報処理の方法がユニークなために、場合によっては問題視されます。それを障害と捉えるのではなく、例えば、活発だけど不注意とか、物静かで引っ込み思案といった特性と捉えてはいかがでしょうか。体質的なものと表現してもいいかもしれません。花粉症などアレルギー体質と似たようなものと考えると、神経発達症の7割程度が遺伝的素因によるもので、親にも似た特性をお持ちであることに納得がいくはずです」。

他人には強すぎる個性に見えても、本人や親は気にかけていないこともあるようです。日々の生活で困っていないのであれば、障害ではないということです。「障害ではなく、 “個性”と受け止めればいい。周りもそう受け止めて欲しい。ましては、母親の育て方が原因ではありません」と高橋センター長は言い切りました。

「不安があるなら、ぜひ相談に来て」と呼びかける高橋センター長
「不安があるなら、ぜひ相談に来て」と呼びかける高橋センター長

得意なこともあるはず、自己肯定感を高めて

さらに高橋センター長は続けます。

「あることがとても苦手なら、ほかにものすごく得意なこともあるものです。そりゃ、できた方がいいけど、できなくても気にする必要はない。苦手なことも、そのうち好きになるかもしれませんよ。僕は子どもの頃、大の運動嫌いだった。特に球技。でも50歳を過ぎて走ることだけは得意だと気付きました。人生そんなもんじゃないですか。

発達が多少遅かったり、個性が強かったりしても、自信を持たせることが大切です。自己肯定感を高めてあげることです。幼い頃からわが子の自尊心を傷つけてはいけません。『自分はダメな人間だ』と思わせてはいけません。

神経発達症の子どもたちは、怠け者、変わり者と誤解されることも多い。親や支援者からそのように誤解されたら、“生きづらさを感じ続ける”ことになります。もちろんそんなことは皆さん、頭では分かっているんです。なぜうちの子だけ、ネットにも書いてあるし、と不安になるのも当然です。不安な気持ちで悩み続けるよりも、専門医に相談して“大丈夫ですよ”の一言をもらっては?」

柔和な笑みを見せながら話をする高橋センター長
柔和な笑みを見せながら話をする高橋センター長

一方で、学校での数々のトラブル、不登校、家庭内暴力など、実際に生活に大きな問題、支障があれば、療育などの手助けが必要な場合や薬による治療が有効な場合もあります。高橋センター長は「一般小児科の先生では見極めが難しいこともあります。そういうときこそ当センターのような専門医のいる医療機関がお力になれると思います」と言っています。

高橋孝雄(たかはし・たかお)
新百合ヶ丘総合病院・発達神経学センター長・名誉院長。慶應義塾大学名誉教授。専門は小児科一般と小児神経。
1957年生まれ。1982年慶應義塾大学医学部卒。1988年から米国マサチューセッツ総合病院小児神経科に勤務、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年に帰国、慶應義塾大学小児科で医師、教授として活躍、2023年より現職。趣味はランニング。マラソンの自己最高は2016年東京マラソンでの3時間7分。著書に『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』(マガジンハウス)がある。