植物由来の食品がここ数年注目を集めているアメリカで、新型コロナが感染拡大した昨年3月以降、劇的に売り上げを伸ばしている日本の食品がある。豆腐だ。

巣ごもり需要や精肉加工工場の臨時閉鎖などでスーパーの生鮮食品コーナーから精肉が消えたことで、代替肉と共に貴重なタンパク源として脚光を浴びるようになった。昨年上半期だけで売り上げは前年同時比40%増となり、その後も好調をキープしている。

健康維持と安価で人気

大豆由来のタンパク源である豆腐は以前から、「ヘルシー食品」として健康志向の高い人には人気があったものの、新型コロナを機に食事に気をつかう人が増えたことで一般にも広く浸透するようになった。特に肥満や糖尿病がコロナの重症化リスクを高めることが認知され始めたこともあり、低カロリーで高タンパク質な豆腐の人気に火がついたと言われている。

さらに、豆腐はフェイク肉と比べて値段が安価なことも人気の理由に挙げられている。およそ400gの豆腐が2~3ドル前後と一般的な代替肉商品の半額以下のため、コロナ禍で経済的に困窮する人たちにとっても貴重なタンパク源にもなっている。

Extra Firm(とても硬い=左)は主にフライや炒め物、Silken(絹ごし=右)はシェイクやスムージーに使われる。パック入り豆腐は常温で長期保存できるため、コロナ禍で重宝されている
Extra Firm(とても硬い=左)は主にフライや炒め物、Silken(絹ごし=右)はシェイクやスムージーに使われる。パック入り豆腐は常温で長期保存できるため、コロナ禍で重宝されている

タコスの具やスムージーにも

アメリカではどのように豆腐が食べられているのかというと、日本人のようにみそ汁の具にしたり、冷奴のように生で食べる習慣はなく、基本的に固い豆腐は焼いたり、揚げたり、炒めたりと肉の代わりにすることが多い。タコスの具にすることもある。絹豆腐のような柔らかいものはイチゴやマンゴーと一緒にミキサーにかけてスムージーにするなど、ユニークなレシピも多数公開されている。

一昔前までは「大豆は家畜の餌」と言われ、柔らかな食感で味のない豆腐は忌み嫌われていた。しかし90年代初め、当時大統領夫人だったヒラリー・クリントン氏が「健康のために豆腐を食べている。高血圧の夫にも食べさせたい」とインタビューで語ったことで、「TOFU」の名が一気に全国区になったと言われている。今はTofu(豆腐)とTurkey(ターキー=七面鳥)を掛け合わせた「Tofurkey(トーファーキー)」という豆腐でできた偽ターキーも登場するなどその価値が見直され、受け入れられるようになった。

日本の豆腐より硬さや食感など種類が多く、様々な加工品も誕生している
日本の豆腐より硬さや食感など種類が多く、様々な加工品も誕生している

加工商品も続々と発売

早くから専門家の間ではコロナと食事の因果関係について指摘されてきた。最近新たに発表されたハーバード大学付属のマサチューセッツ総合病院の研究者が主導して行った研究でも、「植物性タンパク質中心の食事をしている人は新型コロナの感染や重症化のリスクを減らせる」と報告している。

そのため、最近では初心者でも食べやすいよう味付き加工された豆腐ナゲットや豆腐を使ったしらたきヌードルなど手軽な製品も多く登場しており、一般のスーパーマーケットにもTOFU製品のコーナーが設けられている。特にこれから冬にかけて感染の再拡大が懸念される中、今後も健康維持のために豆腐を食べる人は増えていきそうだ。

【ロサンゼルス=千歳香奈子通信員】