アスリートは短い時間でたくさんの食事を食べなければいけない場合が多く、早食いの人が多いようです。「早食いは太りやすい」と言われるので、増量したいアスリートは「むしろ早食いした方が増量しやすい」と思うかもしれません。

早く食べてもよく噛めて消化吸収できていればいいのですが、焦ってよく噛まずに飲み込むと消化できず、下痢をしやすくなります。下痢をすると、栄養分を吸収できないまま排出することになるので、せっかく食べたものが無駄になってしまいます。

食べ物を消化吸収し、体の栄養にしていくには、噛むことが重要です。

咀嚼(そしゃく)の効用

(1)噛む刺激によって唾液や胃液の分泌を促進し、食物の消化吸収を助ける
(2)よく噛んでゆっくりと食事をすることにより血液中の血糖値の高まる時間が生じ、満腹中枢を刺激し、過食・肥満を予防する
(3)食物を味わうことにより、心理的満足感、情緒的豊かさを感じ、ストレスを解消する
(4)あごの動きが脳の血液量を増加させ、知的発達を促進し、老化の予防となる
(※ライオン株式会社HP「今、あらためて『咀嚼』https://www.lion.co.jp/ja/life-love/history/museum/04/03.php」より)

このほか成長期であれば、あごや歯の発育を促進する、唾液による抗菌作用により食中毒を予防するという効果もあります。

ガムを噛んで集中力高める

また、食べ物をよく噛んで食べることは栄養面だけでなく、心理面や脳の血流にも関係しています。アスリートがガムを噛みながら練習することがありますが、ストレス解消するだけでなく、集中力を高める効果があります。しっかり噛むためには、歯が大切です。歯を食いしばって力を出す場合、体重の2~3倍の重力が歯にかかるため、マウスピースをつけて競技に臨む選手もいますね。

逆流性食道炎の人は特に一口で30回

噛むトレーニングとして「一口で30回噛む」ことが推奨されていますが、この30回にも根拠があります。日本咀嚼学会の「日本咀嚼学会からの発信(1)http://sosyaku.umin.jp/info/file/info01.pdf」を参考にしてください。なお、「30回噛む」は目安ですが、食後に胃もたれがある人、逆流性食道炎と言われたことがある人は、特に噛むことを意識して食事をすることで改善できる可能性があります。

「食トレ(食事トレーニング)」という言葉も浸透してきていますが、「噛むことは筋トレ(筋肉トレーニング)」だと考えると、噛むことへの意識も変わるでしょう。

【管理栄養士・今井久美】