埼玉といえば、人口全国5位、県内総生産も全国5位の大県なのに、ブランド総研の魅力度ランキングでは最高40位。毎年40~45位の間をウロウロしている。何か日本一を、と立ち上がったのが「うどん」だ。実は埼玉、生産量全国2位、店舗数も全国2位という知る人ぞ知る「うどん県」。11月には「全国ご当地うどんサミット」が熊谷で初開催される。果たして日本一になることはできるのか。

 
 

生産量は全国2位

 県のホームページをのぞいてみる。「すごいぞ!埼玉」の「まだまだあるのサ!埼玉自慢」にこんな自慢が載っていた。「埼玉県のうどん生産量は、讃岐うどんで有名な香川県に次いで全国2位の座にあります。また、うどん店の数も全国2位で、本州随一の『うどんの国埼玉』です」。

 生産量は「水沢うどん」の群馬、「みそ煮込み」や「きしめん」の愛知、小麦の王国・北海道を抑え、店舗数も埼玉より人口が多い愛知、大阪、神奈川を上回る。確かに全国2位だ。

 
 

 
 

 「埼玉を日本一の『うどん県』にする会」を結成して2年。永谷晶久会長は「スローガンは『1人当たり1カ月プラス2杯で日本一』です。あと月に2杯で香川県を抜ける。月に2杯くらいなら、いけそうな感じがします」と話す。730万県民があと2杯ずつ食べれば、計算上、全国からうどんファンが集まる香川(人口97万人)を逆転できるというのだ。

日照時間が長く、小麦栽培が盛ん

 それにしても埼玉のうどんは知られていない。「そうなんです。何にもPRしていなかった。PRしていないのに2位ですから、埼玉にとってうどんはメガコンテンツです。歴史も古く土地土地にうどんがあって、どこを掘ってもうどん文化が出てくる。大小合わせると、25種類ぐらいあります」(永谷会長)。

 
 

加須うどん
加須うどん

鴻巣川幅うどん
鴻巣川幅うどん

川島町すったて
川島町すったて

鳩ケ谷ソース焼きうどん
鳩ケ谷ソース焼きうどん

深谷 煮ぼうとう
深谷 煮ぼうとう

 日照時間日本一の埼玉は昔から小麦栽培が盛んだった。麦踏みと二毛作を推奨し、収穫量を大きく伸ばした「麦翁(ばくおう)」権田愛三(1850~1923年)も熊谷出身だ。「武州煮ぼうとう研究会」の根岸祥次会長は「私が中学生のころは、社会科で埼玉は麦の生産量が日本一だと勉強しました。今は北海道が断トツで埼玉は5、6番目ですが、昔は埼玉の方がずっと多かった。赤城おろしが吹く中、子どもも麦踏みを手伝わされたし、それだけ食べられてきたんです」と振り返る。

うどんサミットでは「麺」を焦点に

 その埼玉で「全国ご当地うどんサミット」が初めて開かれる。キャッチフレーズは「国産麦の聖地・熊谷から 麺 for ALL,ALL for 麺」。小島新治事務局長は「国産麦の中興の祖・権田愛三さんが生まれた熊谷でやるんですから、トッピングの豪華さの競争ではなく、原点の麺に焦点を当てた大会にしたいと思います。それが熊谷でやる意味なんじゃないかと思います」と話す。

 埼玉からは熊谷のほか、深谷、加須が参加する。深谷の煮ぼうとうは「ニッポン全国鍋グランプリ」で優勝したことがあるが、うどんサミットは初めて。加須は初の全国大会出場となる。「加須手打ちうどん会」の杉田恵一さんは「花咲徳栄に続いて加須の知名度を上げるいいチャンス。結果的に県全体の消費量につながれば」と意気込む。

 果たして埼玉は日本一のうどん県になれるのか。うどんサミットではスペシャルサポーターを務める永谷会長は「ブームを起こしちゃまずいと思っています。一発屋になってはいけない。うどんサミットは3年連続で熊谷で開かれますから、ちょっとずつ盛り上がって、気付いたら日本一というのがいいなと思っています」と構想する。

 
 

 ただ、迎え撃つうどん県・香川は「うどんの盛り上げに埼玉県の皆さんが立ち上がられたことを歓迎します。ぜひ本場の讃岐うどんを食べにお越し下さい」(県観光振興課)と、全く余裕のコメントなのだった。

記者が食べ歩き、想像以上のうまさ

 埼玉のうどんを食べ歩いた。絶品だったのは川島町の「すったて」。ゴマをすり、大葉、キュウリ、ミョウガなど夏野菜とみそを入れてさらにする。かつお節とさば節のだし汁を加えると、暑い夏にぴったり。永谷会長も「川島町はアクセスがすごく不便ですが、すったては本当においしい」と話す。

 1711年(正徳元)6月25日付の館林城主からの礼状が残り、条例で6月25日を「うどんの日」にしている加須には1977年(昭52)、皇太子時代の天皇陛下も召し上がった「冷汁」がある。ごまみそ風味で、大葉、キュウリ、のり。さっぱりとして夏向きだ。

 「こうのす川幅うどん」と「鳩ケ谷ソース焼きうどん」は生まれて10年に満たない。08年に荒川の川幅が日本一と認定され、誕生した川幅うどんは店によって違うが、うどんの幅が5~8センチ。訪ねた店は1人前がうどん3本というか3枚だった。揚げナス、ショウガ、ゴマの「なす汁」で食べたが、想像以上のうまさだった。

 「彼らの思いは熱い」と永谷会長がイチ押しするのが鳩ケ谷ソース焼きうどん。川口市への吸収合併で市名が消える運命にあった鳩ケ谷の名を残そうと、商工会がブルドックソースと共同開発した。鳩ケ谷工場出荷のソースしか使わない、こだわりの焼きうどんだ。

“山田者”も驚く味

 店舗数で大貢献しているのが“埼玉県民のソウルフード”「山田うどん」だ。1都6県に170店を展開しているが、90店は埼玉。赤いカカシは埼玉の幹線道路に欠かせない。「コシがないフニャフニャうどんが代名詞でしたが、商品改良で8月から国産小麦に変えました。コシとモチモチ感が出て食感が変わったと好評です」(江橋丈広営業企画部長)。山田を愛する“山田者”からは「山田なのにうどんがうまい」と驚きの声が上がっている。【中嶋文明】

権田愛三

ごんだ・あいぞう。1850年(嘉永3)、武蔵国別府村(熊谷市)生まれ。麦の増産の研究に取り組み、麦踏み、二毛作を全国に広めた。「麦翁」とたたえられ、戒名も「真月院麦翁全聲居士」。1928年(昭3)死去。墓は熊谷市指定記念物。

全国ご当地うどんサミット2017in熊谷

11月18、19日、熊谷スポーツ文化公園で開かれる。讃岐、稲庭など30のご当地うどんが出店し、10万人の来場者を見込む。熊谷での開催は19年までで、ラグビーW杯と重なる19年は海外への発信も目指している。

(2017年9月4日付日刊スポーツ紙面掲載)