<キッチンは実験室(69):貝のうま味の科学>

キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。秋から冬は牡蠣がおいしい季節、あのうま味はたまりませんよね。ところで、貝のうま味は昆布やかつお節とは何が違うかご存じですか? 今回は「貝のうま味」に注目していきましょう。

貝に含まれるうま味成分「コハク酸」

以前、「うま味の科学」で、出汁(だし)のうま味成分についてお伝えしました。代表的な3つのうま味成分は、昆布やトマトに含まれている「グルタミン酸」、干し椎茸に含まれている「グアニル酸」、かつお節や煮干しに含まれている「イノシン酸」です。貝に含まれているのは「コハク酸」で、そのほかのうま味成分となります。

「コハク酸」は、ドイツの鉱物学者が琥珀を乾留したときに発見したことから、この名前になりました。動植物界に広く存在し、人も含む動物の生体内では糖やタンパク質を燃焼や分解して、エネルギーを作り出す代謝のサイクル(専門用語ではTCA回路)には必須の存在です。

コハク酸はどんな味?

コハク酸を言葉で表すと、どんな味でしょうか。アサリの酒蒸しやお吸い物などを思い起こしてください。

昆布のグルタミン酸は透き通ったまろやかな味、かつお節のイノシン酸は香り高く後味もしっかりとした風味なのに対し、コハク酸は酸味、苦味が少し混ざったような、舌をぎゅっとさせる強い味と言われています。貝のうま味は、ものによっては苦味やエグ味を感じてしまうので、人によって好みが分かれやすいのも特徴の1つ。確かに、牡蠣やシジミなど、人によって好き嫌いがありますよね。

コハク酸はうま味の相乗効果がない!?

出汁を2種類以上組み合わせて「合わせ出汁」にすると、何倍もの味覚の相乗効果がありますが、コハク酸にはその相乗効果が表れにくいと言われています。コハク酸は、酢酸、クエン酸、乳酸と同じく窒素を含まない炭素化合物で、有機酸の一種ですが、味にコクをもたらすとして、他の食材と一緒に使うと良いようです。

新鮮だからうま味が多いとは限らない?

さて、「貝のうま味」といっても、貝の種類によっても違いがあります。コハク酸の含有量が多いものとしてはアサリ、シジミ、牡蠣、ハマグリで、ホタテにはあまり含まれていません。

コハク酸は、生物が呼吸する際に体内で必ず作られ、消費される物質です。酸素が少ない過酷な状態であればあるほど、より多く生み出されます。アサリは海水の中で酸素を吸って生きていますが、呼吸がうまくできない、息苦しい状態になると、命を維持するため、より多くのコハク酸を作り出します。

海から離れると、体内のグリコーゲンを分解し、コハク酸を作って生き続けます。採れたてのアサリがパック詰めされてスーパーに並ぶまでに、コハク酸が1.5倍も増えたという報告もあるほどです。ただし、時間がたちすぎると、アサリはコハク酸を継続的に作り出すことができず、死んでしまうので注意が必要です。

貝は水から?お湯から?

さて、貝のお吸い物などを調理する際、アサリなどの貝は水から茹でますか、お湯を沸かせた後に入れていますか? レシピによって様々ですが、「水から入れて中火にし、貝殻が開いたら火を消して予熱のままおく、またはすぐに取り出す」のがおすすめです。

水から入れると

うま味が汁に流れます。弱火でコトコト煮たり、貝が開いてからも加熱し続けると、身が固くなってしまいます。

お湯から入れると

加熱でタンパク質を固めるので、貝のうま味や食感を身の中に残すことができます。アサリやハマグリの酒蒸しは、少量の酒や水を入れて強火で蓋をして加熱しますよね。強火で沸騰させることで身にうま味が閉じ込められて、身がふっくらしたまま食べることができます。

また、お湯からゆでると、温度変化によってタンパク質が固まって貝殻から剥がれやすくなります。貝殻から身がはがれない方がよいアサリやハマグリの料理では水から入れ、貝殻が小さいシジミの料理ではお湯から入れることが多いようです。

つまり、水から入れた方が良い料理は、「貝のうま味エキスを汁ごと味わいたい場合」「火の通りに時間のかかる大きな貝を使う場合」。一方、お湯から入れた方が良い料理は、「ふっくらした身を味わいたい」「火が通りやすい小さな貝を使う場合」と覚えておきましょう。なお、冷凍食品や缶詰などすでにボイルしてあるアサリを使う場合は、最後の仕上げ直前に加えましょう。

冷凍するとうま味がアップする?

キノコを冷凍するとうま味がアップするように、貝も冷凍してから使うとうま味がアップすると聞いたことはありませんか。実は、本当のところはよくわかっていません。

冷凍前後の貝のコハク酸を調べた報告によると、コハク酸の量は冷凍前後で変わらなかったものの、味わった人間の感覚として「冷凍の方がおいしかった」という回答が多かったというのです。これは冷凍と解凍によって貝の細胞が壊れてコハク酸が外に出て、うま味を感じやすくなったという理由からだと言われています。別の実験データによると、特にシジミに含まれるアミノ酸の1つ「オルニチン」は、冷凍する際にシジミが身を守ろうとすることで最大約8倍に増加すると報告されています。

作ってみよう!クラムチャウダー

最後に、クリスマスメニューにもおすすめの「クラムチャウダー」の作り方を紹介します。野菜をコトコト煮込んだ汁に貝のうま味が溶け込んで栄養たっぷり、心もからだもポカポカになること間違いなしのメニューです。

冬休みで子どもが家にいる場合は、野菜を一緒に包丁で切ってみてはいかがでしょうか。煮物と違ってスープ類は野菜が柔らかくなればいいので、包丁を使うときに野菜を切り揃える必要がありません。大きく切りすぎたら最終的に小さくすればOK。クッキーの型抜きでニンジンを星形に抜いてもいいですね。

その前に、貝の下ごしらえとして欠かせない「砂抜き」の方法も教えます。これを怠ると、味や風味を損ねてしまうので、しっかりやりましょうね。なお、夏場は冷蔵庫に入れた方が安心ですが、冬場は常温で構いません。

<アサリの砂抜き>
用意するもの
・水=200cc
・塩=小さじ1(6g)
(海水の塩分濃度約3%を保つよう水と塩の量を調整する)

・海水と同程度の塩水濃度で、貝殻の頭が少し出るくらいの、ひたひたの塩水を作る。網付きバットやザルを入れたボウルを使うと、貝が塩を吹いた後、砂が自然と下に落ちるため、再び砂を吸い込むのを防ぐことができる(塩水が多すぎて沈んでしまうと、貝殻が酸欠になって死んでしまう。塩分による浸透圧の影響で細胞から水分が抜けてしまう危険もあるので注意しましょう)
・アルミホイルか新聞紙を被せ、30分〜3時間程度置いておく(アルミホイルなどを被せることで、砂の様に暗い状態を作る)
・砂が抜けたら流水で、両手で貝同士をすり合わせるように洗い、ぬめりや汚れをとる。

砂抜きができたらクラムチャウダーを作りましょう。

<材料 4人分>
・アサリ=殻つき400g(缶詰は1缶)
・日本酒=150cc
・タマネギ=1~2玉
・ニンジン=1本
・ジャガイモ=1玉
・オリーブオイル=大さじ1
・コンソメキューブ=1個
・塩、コショウ=少々
・小麦粉(米粉でもOK)=大さじ2
・豆乳=600ml
・水=200ml
・お好みで粉チーズ=大さじ1~2
・飾り用のパセリパウダー=少々

<作り方>
1、タマネギ、ニンジン、ジャガイモを5mmの角切りにしておく
2、砂抜きしたアサリをフライパンに入れ、日本酒を入れたら中火にし、口が開くまで蒸し煮をする
3、アサリと煮汁をボウルに取り出す。フライパンにオリーブオイル、1の具材、小麦粉を加えて全体をさっと炒める
4、水を加えて、中火で材料に火が通るまで煮る
5、火が通ってきたら、コンソメキューブ、アサリと豆乳を加えて、塩、コショウで味を調えて出来上がり