<キッチンは実験室(64):ゴーヤーの苦味の科学>

皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。夏野菜の「ゴーヤー」は、ニガウリとも呼ばれる沖縄を代表する食材です。あの独特の苦味が好きな人もいる反面、お子さんなど苦手な人も多いでしょう。苦味をとる工夫は? おいしいゴーヤーの見分け方は? 今回は、そんなゴーヤーの苦味に注目していきます。

おいしいゴーヤーの見分け方

まず、おいしいゴーヤーの見分け方を紹介します。

・イボの大きさが均一でハリがある
・イボが多ければ多いほど良い
・鮮やかで光沢のある緑色をしている
・持った時にずっしりと重みがある

ゴーヤーの苦味の成分は

一時期は「ゴーヤーのわたは苦い」と取り除けば苦味がなくなるとも言われましたが、実は苦い場所は「外側の緑の部分」といった説が、今では主流です。ゴーヤーが苦いのは場所ではなく、「モモルデシン」という苦味成分があるからです。

モモルデシンは数種類のサポニンと20種類のアミノ酸で構成されている成分で、胃液の分泌を促す、胃腸の粘膜を守って食欲を増進させる作用があります。「ゴーヤーが夏バテ予防に役立つ」と言われるのは、この成分があるからです。血糖値や血圧を下げる効果も報告されています。

ゴーヤーはビタミンCも豊富で、熱に強いのも特徴。鉄、食物繊維、カリウム、葉酸も多く含まれています。

薬膳学的には「苦味は熱を冷ます作用がある」と言われており、「良薬口に苦し」という言葉もあるように、苦味は体にとって大切な成分だとも言えます。しかし、子どもにとって苦味は今ひとつ不評。それならば、ちょっとした工夫で苦味を抑え、ゴーヤーを食べやすくしてみましょう。

苦味を取る(1)塩もみ砂糖もみ

モモルデシンは極性のある水溶性の物質で、塩と混ざりやすく水に溶けやすい性質があります。塩もみをすると、浸透圧でゴーヤーの水分とともにモモルデシンが流れだし、苦味が薄まるのです。

塩と砂糖による下ごしらえ
・ゴーヤー 1本
・塩 小さじ1
・砂糖 小さじ2

ゴーヤーを2~3mmに切り、塩・砂糖と混ぜて5~10分おきます。ゴーヤーが塩・砂糖となじんで味がつくとともに、浸透圧の力で水分とともに苦味成分が流れ出ます。さっと冷水で洗えば、下ごしらえの完成です。

ここでポイントとなるのは砂糖。塩だけでも苦味は薄まりますが、砂糖を加えることで浸透圧の力が強まり、味の相乗効果もあって苦味が感じにくくなります。また、ゴーヤーを薄く切れば切るほど苦味成分が流出しやすいので、自分の好みの厚さで切ると良いでしょう。

・苦いのが苦手=2~3mm
・ゴーヤーチャンプルー=4~6mm
・苦いのが好き=6mm~

苦味を取る(2)油で味覚のマスキング

苦味が残っていても調理や味付けによって、口の中で感じにくくすることもできます。

調理による苦味取り
・油でコーティング
・濃い味付け、甘さを加える

苦味を油でコーティングすると、直接、苦味を舌で感じることがなくなり、食べやすくなります。ゴーヤーを使った料理に、炒め物、天ぷらなど油を使った料理が多いのはこういう理由もあるのかもしれません。

例えば、ブラックコーヒーは苦手だけどコーヒー牛乳は好きという方もいるでしょう。コーヒーに砂糖、牛乳や生クリームを入れると苦味が緩和されるように、味付けを濃くしたり、甘さを加えたりすると苦味を感じにくくなります。

苦味を取る(3)かつお節

「かつお節のうま味成分が苦味を感じにくくする」という研究論文もあります(※参考:かつお節によるゴーヤーの苦味低減)。ゴーヤーチャンプルーと生のゴーヤーで、かつお節をまぶしたものとまぶさないものでそれぞれ苦味強度を調べたところ、かつお節をまぶしたものの方が共に苦味スコアや渋み、青くささが減ったというもの。かつお節エキスによる化学反応ではなく、かつお節のだしがらと一緒に舌で味わうことで苦味を感じる舌の受容体を刺激しないからと報告されています。

だしにも、かつお節のイノシン酸、昆布のグルタミン酸、シイタケのグアニル酸などがありますが、一番苦味に対して効果があるのはかつお節のイノシン酸だと言われています。

このことから、①塩もみしてさっとお湯で湯がく②かつお節をまぶして「おかかあえ」にするだけでも、ゴーヤーの苦味がとれ、おいしく食べることができます。

ゴーヤーチャンプルーを作ってみよう

それでは科学的なポイントを踏まえて、苦味の少ないゴーヤーチャンプルーを作ってみましょう。他の食材を使用する際も「科学」を意識しましょう。

(1)豆腐の水切りはしっかりと

沖縄の「島豆腐」は水分を切って押し固めてあるため、炒め物に適しています。島豆腐がない場合は、木綿豆腐を水切りして使いましょう。豆腐に水分が多いと味がぼやけ、炒めるときに崩れてしまいます。

豆腐の水切りにおすすめなのは電子レンジです。手でちぎった豆腐をボウルにいれて、豆腐1丁に対して600Wで3分温めると、ボウルの底に水分が出てきます。完全に水が切れない場合は、フライパンで揚げ焼きをしてさらに水を切りましょう。

(2)豚バラ、ゴマ油を使う

苦味成分を油でコーティングするため、フライパンにゴマ油をひき、油の多い豚バラ肉を使うと苦味が薄まります。ゴーヤーも薄く切ると、下処理で苦味成分が流出するだけでなく、より油が絡んでコーティングされます。

<材料>
・ゴーヤー 1本
・豚肉(バラ肉や細切れなど)200g
・木綿豆腐 1丁
・溶き卵 2玉
・かつお節 適量
・塩 小さじ1
・しょうゆ 大さじ1

<作り方>
1、ゴーヤーの下処理
両端のヘタを切り、縦に半分に切って種やわたをスプーンで取る。5mm程度の薄さに切って、軽く塩と砂糖をもみ込んで5分おき、その後、水にさっとさらしてざるにあげる。

2、豆腐の水切り
手でちぎった豆腐をボウルに入れて、電子レンジ600Wで3分温め、冷めるまで置いておく。

3、豆腐の揚げ焼き
フライパンに大さじ1のゴマ油を入れて豆腐を焼き、水分を飛ばす。その後、フライパンから取り出しておく。

4、材料を入れて炒める
同じフライパンで豚バラ肉を炒める。火が通ったらゴーヤーを入れてさっと炒め、かつお節を加える(和風顆粒だしでもOK)。

5、しょうゆで味を整える
一度取り出した豆腐を加えて軽く全体を混ぜた後、溶き卵を入れて2~3分、好みの固さになるまで待つ。最後にしょうゆで味を整えて、かつお節をトッピングし、皿に盛り付けて完成。