<キッチンは実験室(59):みりんの科学>

皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。今回は、和食に欠かせない調味料「みりん」に注目していきましょう。みりんの定義とは「米、米麹に焼酎またはアルコールを加えてこしたもの」とありますが、今ひとつピンと来ませんよね。また、「本みりん」「みりん風調味料」など色々な商品があります。今さら聞けない「みりんの原理」を科学の視点から一緒にひも解いていきましょう。

みりんが甘い原理

みりんの材料は「もち米・米麹・焼酎」の3種類だけ。砂糖を使っていないのに甘みがつくなんて不思議ですね。まず、製造過程と材料を見ると、大きく次の2つの段階に分けられます。

(1)もち米と米麹で「甘酒風」を作る
(2)その甘酒を「焼酎漬け」で熟成させる

それぞれ説明していきましょう。

(1)もち米と米麹で「甘酒風」を作る

みりんが甘い理由は「もち米と米麹」にあります。蒸したもち米に米麹を加えて糖化させ、「甘酒風」を作るのです。

以前のコラム「麹甘酒の科学」でも説明しましたが、白ごはんをよく噛んで食べると口の中で甘さを感じます。噛むことで、米と唾液の成分(酵素アミラーゼ)が混ざり合い、でんぷんが分解されて糖を増やすからです。特にもち米は構造上、うるち米よりもブドウ糖を多く含み、甘くなるため、みりんはもち米を利用するのです(※参考1)。

(2)甘酒風を「焼酎漬け」で熟成させる

次の段階です。(1)の甘酒風は腐りやすいため、焼酎の中に入れて半年から数年間、熟成させます。この過程によって、米麹に含まれる酵母は米に含まれるでんぷんやタンパク質を分解して、糖類やアミノ酸、香り高い有機酸を作ります。ただ、酵母によって分解された糖は、そのままだとアルコール発酵をしてしまい、酒になってしまうので、焼酎を加えて酵母が糖をアルコールに変えないようにその働きを抑えているのです。みりんに甘味が残っているのは、このためです。

砂糖との甘味の使い分け

みりんも砂糖も同じ「甘い」調味料ですが、どう使い分けたらいいでしょうか。

砂糖の成分はショ糖の1種類に対し、みりんは熟成過程でトレハロース、マルトース、オリゴ糖、イソマルトース、パノース、グルコース、ニゲロース、麹ビオースなど9種類以上の糖ができて、コクと深みのある味わいを作り出します。糖度(甘さを感じる割合)は40~60%なので舌に残りすぎない、つまり強すぎない甘さで柔らかな舌触りが特徴です。直接的な甘さを付けたいときは砂糖を使うなど、用途によって使い分けるのが良いでしょう。

「本みりん」と「みりん風調味料」

スーパーで調味料の棚を見ると、みりんコーナーには「本みりん」と「みりん風調味料」などがあり、価格にもバラツキがあります。それぞれどういったものなのでしょうか。

本みりん
・材料=もち米、米麹、焼酎(商品によって糖類を人工的に入れたものも)
・アルコール度数=12~14%
メリット=糖化熟成による上品の甘さとコクとうま味。こっくりとしたおいしさ。発酵によるビタミンB1、B6などの健康への効果
デメリット=アルコール分が入っているので原則、加熱して使う。作るのに最低2年かかると手間がかかるため、価格が高い。酒類に分類されるので、酒税(1ℓ当たり20円)がかかり、価格が高く消費税も10%。

みりん風調味料
 本みりんに近づけて砂糖や水飴、うまみ成分や香料を加えたもの。酒税がかからないようにアルコールが1%未満。
メリット=アルコールがないので、加熱せず使える。一般的に本みりんより糖度が高いので、より照りやつやが出る。安価で、軽減税率対象で消費税も8%。
デメリット=アルコールがほとんど含まれていないため、臭み消しなどの効果がない。

発酵調味料(みりんタイプ)
 もち米、米麹、アルコールを発酵させた後に塩を加えて、塩分を約2%にして飲用できなくしたもの。アルコール度数は本みりんと同等だが、そのまま飲めないほどの塩分量なので酒税がかからない。
メリット=アルコールが含まれるので、みりんのアルコールの効果がそのまま得られる。安価。
デメリット=塩分が含まれているのでで、塩味の調整が必要

このように、本みりん、みりん風調味料、発酵調味料の違いは、アルコール分の有無、甘味の由来になります。本みりんには、米と米麹由来の多くの糖類による複合的な甘さがあります。メーカーや商品、こだわりなどで製法は様々ですが、一般的にこの甘みやうま味を生み出すためには長い時間がかかります。

一方のみりん風調味料は、みりんの味を真似て甘さを添加しているので、早く安くする生産することが可能ですが、素材本来の甘みやうま味は感じられません。アルコールがほぼ入っていないので、そのままドレッシングに使えるといったメリットもありますが、出来上がりや調理への効果に違いが生じるので、それらを理解して使うことが大切です。

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