<キッチンは実験室(57・上):はちみつの科学>

皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。今回のテーマは、前回の「ショウガの科学」で紹介したショウガミルクプリンなどのお菓子や日頃作る料理に入れても、そのまま食べてもおいしいとろ~り甘い「はちみつ」です。同じ甘味料でありながら、砂糖と何が違うのか、2回に分けて紐解いて行きます。

紀元前からある「人類最古の甘味料」

漢字で書くと「蜂蜜」で起源は紀元前1万年以上も前。「人類最古の甘味料」と言われているはちみつは、身近にあり、意識せずに使っている方が多いと思いますが、そもそもどういったものか、ご存知でしょうか。

定義を簡単に説明すると、以下の通りです。

・植物の花の蜜からセイヨウミツバチが作り出す天然の甘味料。
・ミツバチが集め、ミツバチが持つ物質で変化、貯蔵、脱水し、巣の中で熟成して糖度80%以下まで濃縮したもの。

もっと分かりやすく言うと、次のようになります。

ミツバチが集めた花の蜜(花蜜)による天然の甘味成分。
蜜を集めたハチが巣に運ぶ際に口に含むことで成分が変化し、その後、ハチが巣に溜め込み、羽をばたつかせて風を送り込むことで花の蜜の水分が蒸発し、糖度が上がったもの。

つまり、はちみつは花の蜜とは違うものなのです。

はちみつが美容や健康に良いと言われる理由

ミツバチが花の蜜を集めて巣の中で貯蔵する間、はちみつが出来上がるまでに2つの科学的な変化が生じています。

(1)花の蜜の成分(ショ糖)が変わる(転化)

ミツバチは集めた花の蜜を、お腹のふくろ(蜜能)に貯めて運び、巣に戻った後に口うつしで巣に貯蔵します。この間、蜜にミツバチの唾液が混ざり、唾液の酵素(αインベルターゼ、グルコシターゼ)によって、二糖類のショ糖が単糖類のブドウ糖(グルコース)と果糖(フラクトース)に分解されるのです。

(2)糖分が濃縮される

花の蜜は糖分が10~20%、残りは水分80%と甘さが薄く、そのまま貯蔵することができません。ミツバチが巣に持ち帰って、蜜を薄く広げて羽で温風を送り、水分を飛ばしていくことによって5~10倍まで濃縮されます。水分の割合が60~70%から20%以下に、糖度は40%から80%まで上がり、常温で保存できるはちみつとなるのです。

完成したはちみつには、次の4つのメリットが挙げられます。

メリット1:速やかなエネルギー補給に

ショ糖だった花の蜜は、ブドウ糖と果糖に分解されます。ブドウ糖は腸からの消化吸収が早く、速やかなエネルギー補給に適したものである一方、果糖はゆっくりと吸収されます。この2つが組み合わさることで、糖質補給の点で優れていると考えられています。また、はちみつの種類にもよりますが、血糖値の上昇が緩やかな低GI値に分類されているものもあります。

メリット2:甘味度が高く砂糖より低カロリー

砂糖とはちみつの100gあたりのエネルギー量(日本食品標準成分表より)を比較すると、

白砂糖=384kcal
はちみつ=294kcal

となり、はちみつの方が23%も低い数値で示されています。白砂糖大さじ1の甘さは、はちみつでは小さじ1強。約3分の1で味わえる計算となり、料理で白砂糖の代わりにはちみつを使う場合は3分の1の量を目安に使うといいのです。

また、はちみつの成分、果糖(フルクトース)は果物の甘さと同じものです。以前、「味覚と温度の科学」でお伝えしたように、果糖は冷やして食べることで甘さがアップすることが知られています。

例えば、果糖を加えた料理を5℃程度に冷やして食べると、白砂糖を使った料理の1.5倍の甘さを感じます。それを利用すれば、少ない量で同じ甘さにすることができます(逆に煮物など、鍋が熱い状態で味見をすると、冷めた時に甘さを強く感じます)。少量でも十分な甘さになることが、「カロリー低めでヘルシー」と言われる理由です。

とはいえ、食べ過ぎては無駄なエネルギーをとってしまいますので注意してください。

メリット3:善玉菌をアップして整調

ミツバチの酵素によってブドウ糖に分解される時、その一部はオリゴ糖、グルコン酸に変化します。グルコン酸は、善玉菌であるビフィズス菌を増やすことで知られています。

メリット4:ビタミンやミネラル

はちみつは花の蜜が原材料のため、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、有機酸、酵素など美容や健康に良いと言われる成分が豊富に含まれています。はちみつ1gの中に3~20万個の花粉があり、それらに天然の栄養成分が含まれています。

とはいえ、ビタミンやミネラルは微量ですので、くれぐれも糖分の取り過ぎには注意してください。他にも殺菌効果、傷口の保湿効果や昔から咳止めに効果があるなどの言い伝えもあります。

1歳未満の乳児には、はちみつを与えない

いくらはちみつが体に良いと言っても、実は与えてはいけない人がいます。それは1歳未満の乳児で、乳児ボツリヌス症を発症することがあるためです。

ボツリヌス菌は自然界に生息する菌ですが、生後1歳未満の乳児は腸内環境が大人とは異なり、ボツリヌス菌の定着と増殖が起こりやすいと知られています。まれに、はちみつにボツリヌス菌が入っていると、ボツリヌス菌が増えて毒素を作り、便秘や脱力症状などを起こす可能性があるのです。生後1歳以上は腸内環境が整う時期なので、はちみつを食べても大丈夫と言われています。

ボツリヌス菌の作り出す毒素は熱に強く、100℃10分でも殺菌できないため、加工食品にも気配りすることが重要です。

アカシア、レンゲ…花によって味が違う

はちみつを作るミツバチの種類は、セイヨウミツバチ、トウヨウミツバチ、コミツバチ、オオミツバチの4種類が知られています。またミツバチが採集する花や樹木の種類はアカシア、レンゲをはじめ4000以上で、日本ではミカン、トチ、そばの花などが有名です。

花の香りが種類によって違うように、はちみつの色も風味も、ミツバチが訪れる花や時期によって異なる個性を作り出しています。はちみつの色の薄い方が味にクセがなく、色が濃いほどしっかりとした味わいになります。

アカシアはちみつ=アカシアの花(花粉)から採取
透明感がある見た目。上品な香りとさっぱりした甘みが特徴。やさしい口当たりがよくてクセがない。

菩提樹はちみつ=シナノキの花から採取
甘さが強く、ハッカに似た清涼感が特徴。ハーブとして使われていてリラックス効果のある香り。

リンゴはちみつ=リンゴの木の花から採取
上品で繊細なリンゴの花の香り。甘酸っぱいフルーティーな風味。クセも少なく食べやすい。
※商品によっては、リンゴシロップとはちみつをあわせて「リンゴはちみつ」とうたっているものもあります。リンゴの花粉由来のはちみつを選ぶ際は成分表を確認しましょう。

百花はちみつ=複数の花から採蜜されたはちみつ
地域や季節によって風味や香りが変わるのが特徴

ティースプーン1杯分のはちみつの量は、ミツバチ1匹が一生かけて作り出す量とも言われています。自然の恵みに感謝して、おいしくいただきましょう。