<キッチンは実験室(44):雑炊の科学>
皆さん、こんにちは。キッチンの科学プロジェクト(KKP)のみせすです。朝晩寒くなってきましたが、そんな時にはほっこり温まる鍋がいいですね。ところで、しめの雑炊は冷や飯を使っていますか? ご飯を洗っていますか? 今回は、おいしい雑炊を作るための「雑炊の科学」を紹介します。
雑炊の話をする前に、「リゾットの科学」から紐解いていきましょう。
アルデンテなリゾットを作るには
イタリアの代表的な家庭料理、リゾット。米は、一粒ごとにパラパラと感じやすい状態に、米の中心に芯が残っているような歯触りのアルデンテに仕上げるのがおいしさの秘訣です。その点で、でんぷんが水を含んで膨らんだ状態の日本のおかゆや雑炊とは似て異なるものと言えるでしょう。
リゾットを作るには、日本のご飯のような糊状の粘りを出さないように、次のような手順で行います。
(1)米を洗わずに炒める。
(2)熱いだし汁(ブイヨン)を数回に分けて、ひたひたになるくらい入れる。
(3)弱火で約15分煮込む。
(4)米粒が割れないよう気をつけつつ、バターやチーズなどのソースを思いっきり混ぜる。
リゾットに粘り気を出さないコツ
ではなぜ、この手順が必要なのでしょうか。理由を説明します。
(1)米を洗わずに炒めることで表面がコーティングされて硬くなり、米粒同士が集まります。
(2)だし汁を加えて火を通すと、表面がもろくなって内部が柔らかくなり、表面同士が独立。米の周りにコーティングされた油が壁となり、最低限の水分が米の内部に入るようになるため、硬めに煮上がり、粘りが必要以上に出ません。
また、だし汁は熱めのものを入れるのがコツ。だし汁が冷たいと、注ぐたびに温度が下がって米の表面温度も下がり、米の内部へと熱が伝わっていく過程で中心部が柔らかくなりすぎて、全体にふやけたような粘りが出てしまうからです。煮上がるまでの時間もかかります。
だし汁を数回に分けて入れるのは、一気に入れて米粒を対流させ、衝突することで糊状になるのを防ぐため。余計に水分を吸収して粘りが出るのを防ぐためです。
(3)弱火で煮るのも、対流によって米粒同士がぶつかり合わないようにするためです。極論を言うと、米粒がぶつからないように、ほとんど混ぜずに作るのが、おいしいリゾットにするポイントとも言えます。
リゾットの原理を逆手にとった雑炊
このリゾットの原理を逆に生かしたのが、鍋のしめの雑炊です。温かい鍋に冷や飯を入れることで、鍋の内部の温度が下がります。熱すると対流が起こり、米粒の表面が崩れていきますが、ご飯が冷たいため、米の内部に熱が伝わりづらく、鍋の中で温度差が生じます。すると、米の中心部分で糊化が進んで一層表面が柔らかくなる間に、全体にもとろみがついて、粘りのある雑炊が出来上がるのです。
つまり、粘り気のある雑炊を作るには、冷や飯を使うのが良いということになります。