大学ラグビーの名門、明治大学ラグビー部の100代目キャプテン、CTB廣瀬雄也(4年=東福岡)はピッチにいなかった。1年生から唯一レギュラーに定着し、プレースキッカーも担ってきた中心選手だが、今シーズンの関東大学対抗戦終盤は足のケガで欠場。12月3日に国立競技場で行われた伝統の一戦、100回大会を迎えた早明戦もベンチから仲間に声を送っていた。

早明戦をケガで欠場した廣瀬はウォーミングアップで輪の中心に立って仲間を鼓舞した
早明戦をケガで欠場した廣瀬はウォーミングアップで輪の中心に立って仲間を鼓舞した

試合は後半、早大に追い上げられるも58-38で勝利し、6勝1敗の2位で大学選手権に進んだ。そんな廣瀬の姿を、母道子さんはスタンドで夫の友幸さんとともに見守っていた。ゲン担ぎのため、地元の宗像大社高宮(福岡)でお参りをしてから都内へ向かい、ラグビージャージーと同じ紫紺の小旗を振りながら、チームの勝利を喜んだ。

福岡から夫と観戦、「仲間が1番の宝物」

「雄也が試合に出ていると緊張してちゃんと見られないのですが、今日は目を逸らさずにしっかりと見られました。むしろ、心から楽しんでチームを応援することができました」と笑った。ベンチから仲間を鼓舞する息子を見つめながら「皆んなに支えてもらってばかりの頼りないキャプテンですが、本当にいい仲間に恵まれました。それが1番の宝物です」とかみしめるように言い、この4年間を振り返った。

コロナ禍の自宅待機中も食事で体をキープ

廣瀬ら4年生は、コロナ禍の大打撃を受けた世代。2020年の春、東福岡の卒業式は“無観客”となり、大学の入学式もできず、寮も閉鎖となった。一旦、福岡に戻り、リモート授業を受けながら自宅でトレーニングをしたり、近所を走ったりするだけの数カ月。その間、「痩せないように」と道子さんはタンパク質中心の食事を作り、体重をキープさせた。

父は元実業団チームの宗像サニックス・ブルースの選手で、道子さんは同チームのスタッフというラグビー一家。実業団のソフトボール選手として国体でも活躍した道子さんは「アスリートの食事」にも気を配り、高校時代に右肩脱臼で半年間、戦線離脱した廣瀬を支えている。6月下旬に寮生活が再開すると、好物の栗おこわや山菜おこわ、祖父母の地元大阪の焼肉を送るなどして「食のエール」を送り続けた。

10月15日の立教戦後、母道子さんから大好物のお手製アーモンドクッキーを受け取り、「これ、ウマいんですよ~」と笑みを浮かべる廣瀬
10月15日の立教戦後、母道子さんから大好物のお手製アーモンドクッキーを受け取り、「これ、ウマいんですよ~」と笑みを浮かべる廣瀬

体作りには食事が大切ということを理解している廣瀬は、大学でもしっかり食べてトレーニングを重ね、高校時代から8キロ増の95キロへ(179センチ)。「帰省するたびに大きくなっている」と毎回、家族を驚かせてきた。

「入学当時はいろんな思いがありましたが、今振り返ると、東福岡1年だった次男(幹太=現福工大ラグビー部1年)と4人で食卓を囲めた貴重な時間でしたね。今までそういう機会がなかったので、家族でゆっくりラグビーの話ができました」(道子さん)。

大学2年になってからは連絡を必要最低限にとどめた。自身も日南学園女子ソフトボール選手時代に寮生活を経験している。「いろいろ心配したくなりますが、仲間もいますし、戦っているのは本人。困ったときに助けてあげる準備だけするようにしました」と、良い距離感を保って自立を促した。

100周年式典で堂々たるスピーチ「すごい巡り合わせ」

「俺らが4年になったとき、明治は100周年らしいよ」
「えっ、ホント!? それはすごい巡り合わせだね!」

道子さんが廣瀬とそんな会話をしたのは、入寮したての頃。そのときはまさか息子が100代目キャプテンになるとは思ってもいなかった。

主将歴は東福岡時代に永嶋仁(早大4年)とともにダブルキャプテンを務めただけで、単独は初。しかも節目の重責を背負うことなり、道子さんは不安でいっぱいだったという。しかし、息子は立派に成長していた。7月の100周年記念式典では、先輩や関係者の多くを前にして堂々とスピーチを行った。

「100周年を迎えられたのは先輩方のお陰です。またライバルとしてしのぎを削ってきたライバルの皆さんの存在があったからこそ、明治大学ラグビー部はここまで成長できたと思います。この100周年にあたり、我々は『ONE MEIJI』という言葉をスローガンに掲げました。100年続いた歴史が、もう100年続くように私たちが素晴らしい伝統を継承していく必要があります。そのために部員一同、一つになって頑張っていきます」。

「ファミリーのように仲がいい」4年生が集まって記念撮影(10月15日立教戦)
「ファミリーのように仲がいい」4年生が集まって記念撮影(10月15日立教戦)

4年生全員が「息子」、悔いなくやりきって

ひとつ屋根の下で息子と過ごし、一緒に成長した4年生のことを道子さんは「全員が息子のよう」と言う。

「新聞や雑誌の記事で雄也のコメントを読むと、本当にいい仲間に恵まれたんだなと感じます。ときどき雄也から写真が送られてくるのですが、それを見ただけで仲の良さが伝わってきます。日本一の集団になるために、私生活から変えて環境を整え、自覚を持って練習に取り組んでいると聞いています。悔いなくやり切って、それが優勝という結果で終われたら最高ですね」。

小学1年からラグビーを続けてきた廣瀬だが、まだ全国優勝の経験がない。23日の大学選手権準々決勝、筑波大戦(秩父宮)もベンチから声援を送る。日本一の夢はつかめるのか、願いは届くのか。仲間とともに戦ってきた息子が悔いなく大学生活を終えられることを、道子さんは願っている。【樫本ゆき】

<関連コラム>
ケガきっかけに食の大切さ再確認、東福岡のCTB廣瀬雄也が明大ラグビー部へ
コロナ禍で奮闘する息子へ、明大ラグビー部1年廣瀬雄也の母が思いを語る
東福岡関連記事一覧
明大ラグビー部関連記事一覧
ラグビー選手のレシピ&コラム一覧