毎日の料理作りの中で頻繁に使用する包丁、皆さんはどのようにお手入れをしていますか? お気に入りの1本を購入したものの、最近は切れ味が悪くなってきたという方も多いのではないでしょうか。

定期的なメンテナンスで調理効率上がる

包丁は定期的にお手入れをすることで、切れ味をよみがえらせ、長持ちさせることができます。また、よく切れる包丁を使うことで食材の素材を生かし、よりおいしく、より栄養価の高い料理を作ることもできるのです。調理効率が上がり、子どもの好き嫌い克服につながることもあります。

家庭ではシャープナーで包丁をメンテナンスしている人もいると思いますが、一時的に切れ味を戻すことはできても、刃先の研ぎ直しにはなりません。そこで、初心者でもできる「砥石による包丁の研ぎ方」について、前回の「包丁の選び方」に続き、創業114年の刃物メーカー「貝印」の包丁マイスター、林泰彦さん(60=マーケティング本部マイスター推進部シニアエキスパート)に紹介してもらいましょう。これまで自己流でやってきてうまくできなかったという方は必見&必読です。

砥石の種類は3種類、目的によって選ぶ

砥石には大きく分けて3つの種類があります。種類によって得意とする役割が異なるので、目的に合った砥石を選ぶことが大切です。

さらに、砥石には「番手」と言われる砥石の粗さを示す数値があります。市販のものでは200番(#200)程度から30000番(#30000)程度まであり、番手の数字が小さいほど粗く、大きいものほど細かくなります。初心者でも使いやすいのは、中砥石の1000番(#1000)前後のものになります。

砥石の種類
荒砥石…削る力が強く、刃欠けを直すことに適しており、刃線を滑らかに正します(#200~#600)。
中砥石…落ちた切れ味を復活させます(#1000前後)。
仕上砥石…繊細な刃付けで、より優れた切れ味にします(#2000以上)。

関孫六中砥石#1000
関孫六中砥石#1000

包丁研ぎに必要なもの

次に、研ぐために必要なものを準備しましょう。研ぐ場所はキッチン台でも食卓でもいいですが、両腕が自由に動かせるぐらいのスペースが必要です。

用意するもの
砥石、砥石を水に浸ける容器と水、包丁、布巾1~2枚、新聞紙1日分、鉛筆1本、面直し用砥石

研ぐ前には、砥石に水を十分に含ませておきましょう。あらかじめ桶などの容器に水を張っておき、気泡がでなくなるまで砥石を漬けます(約15分間)。泡がでなくなったら、使用できる状態となります(※お手持ちの砥石の説明書に従ってください)。

上手に研ぐための5つのポイント

さあ、包丁研ぎのスタートです。林さんは上手に研ぐポイントとして以下の5点を挙げました。包丁研ぎを失敗させないために、それぞれ順を追って説明してもらいます。

包丁研ぎのポイント
①正しい動作で研ぐ
②研げたか確認
③反対側も研ぐ
④バリを落とす
⑤砥石のメンテナンス

貝印包丁マイスターの林泰彦さん
貝印包丁マイスターの林泰彦さん

①正しい動作で研ぐ

砥石は肘より少し下、へそくらいの位置に準備し、専用の研ぎ台または濡れ布巾の上に置いて動かさないようにします。刃こぼれしにくくよく切れる刃をつけるためには、刃を前後左右に動かして、ゴシゴシこするように研いでも意味がありません。林さんは、砥石で包丁を研ぐ上で最も大切なこととして「包丁を砥石に当てる角度をブレさせないこと」と強調しました。

角度をブレさせないために、包丁の握り方も重要です。利き手でハンドルを握り、人差指で峰と呼ばれる背中、親指であごと呼ばれる刃に近いところを押さえるように持ちます。三点支持(峰+あご+ハンドル)の持ち方をすると、砥石にあてる包丁の角度が安定しやすくなります。

三点支持(峰+あご+ハンドル)の持ち方
三点支持(峰+あご+ハンドル)の持ち方

包丁を持ったら刃を手前にし、砥石の縦方向に対して約45度に置くようにします。砥石にあてる角度は、砥石と包丁の間に小指が少し入る程度(片側15度程度)が目安です。

砥石の縦方向に対して包丁は約45度の角度に
砥石の縦方向に対して包丁は約45度の角度に
砥石にあてる角度は、砥石と包丁の間に小指が少し入る程度(片側15度程度)
砥石にあてる角度は、砥石と包丁の間に小指が少し入る程度(片側15度程度)

利き手でない方の人差し指、中指の2本を研ぐ部分に軽くあて、肘を軽く曲げて脇をわずかに開け、肩の力を抜いて滑らかに前後に動かします。腕の重さが少し乗る程度の力で動かし、砥石の縦方向の幅をいっぱいに使うと、効率よく研ぐことができます。

包丁に添えた2本指は、切っ先、刃中、あごの近くと、研ぐ部分を変えるたびにずらしていきます。研いでいる間、角度をブレさせず、正確に研ぎ続けることが大切です。

②研げたか確認

研いでいくうちに、削り落とした鋼材の微粉末と砥石が削れたもので水が黒くなってきます。この研ぎ汁は滑らかに研ぐ手助けになります。途中、砥石が乾いてきたら、水を数滴垂らして研ぎ続けます。

ある程度研ぐと、刃先に手で触るとわかるくらいの引っかかり、バリ(刃返り・返り・まくれ)が出てくるので、この引っかかりやバリを確認しながら研いでいきます。切っ先からあごまでの全体にバリがでたら、包丁を逆さにして反対の刃を研ぎます。

③反対側も研ぐ

反対側も包丁を砥石にあてる角度は約15度です。研ぎ過ぎるとその分、包丁が短くなってしまいます。髪の毛1本分ぐらいの引っかかりやバリを全体に感じれば、刃がついたと言えます。あご付近を研ぐ際にハンドルが砥石にあたりそうになったら、包丁が砥石に対して直角になるように置いて研ぎましょう。

④バリを落とす

両面とも全体にバリがでていることを確認したら、新聞紙を平らなところに広げ両面をこすり、バリを落とします。強くこすりすぎて刃を潰さないために、砥石ではなく新聞紙(もしくは使い古しのデニムなど)を使うのがベターです。

新聞紙を平らなところに広げ両面をこすり、バリを落とす
新聞紙を平らなところに広げ両面をこすり、バリを落とす

試し切りをして、スムーズに切れれば、研ぎ終わりです。スムーズさがなく、抵抗感(ひっかかり)があれば、その部分にバリが残っていることがあるので取りましょう。

⑤砥石のメンテナンス

1回でも包丁を研ぐと、砥石は中央からへこみます。へこんだままの砥石を使うと角度が安定せず、上手に研ぐことができません。砥石を使ったら必ず面直し用砥石を使って、平らになるまで削りましょう。

平らになっているかどうか確認するために、鉛筆で印をつけておくと分かりやすくなります。面直し用砥石で削り、鉛筆の印が消えれば完了で、通常10秒程度で終わる作業です。平らになった砥石は水気をふき取り、室内に保管します。

タマネギを切っても涙が出ない

砥石を使った包丁研ぎは、「慣れれば簡単にできるメンテナンス。1度チャレンジして欲しい」と林さんは話します。切れる包丁で食材を切ると、料理が楽しくなるだけでなく、たくさんの良い効果が生まれるようです。

最も大きなことは「食材の繊維をつぶすことなくきれいに切断できる」こと。職業柄、家庭でも包丁のメンテナンスを怠らない林さんは「タマネギのみじん切りをして涙が出たことは1度もありませんし、涙が出る方が不思議でしょうがない」と言い切ります。

タマネギを切ると涙が出るのは、切った際に細胞が壊されて、目や鼻を刺激する硫化アリルという成分が空気中に飛び出し、目に入るからですが、よく切れる包丁を使うと細胞を潰すことが少なく、短時間で調理することができるため、涙腺を刺激することがないのでしょう。さらに、食材の水分やうまみ、栄養素も逃さないという利点もあります。

子どもが苦手なピーマンを食べた

実際に林さんは、研いだ包丁を使った人から「子どもが苦手だったピーマンを食べられるようになった」との報告をもらったことがあると言います。ピーマンは切断することで細胞が破壊された分、苦味成分も排出されるので、よく切れる包丁を使って苦味がでなかったことで、苦手なピーマンを克服できたのだと思われます。もしかすると、子どもの好き嫌い克服のポイントは、包丁のメンテナンスにあるかもしれません。

切れる包丁を使うと料理の味や舌触りが良くなり、見た目もグレードアップします。月に1~2回、砥石で研いでみることで料理の腕がグッと上がります。

【アスレシピ編集部・飯田みさ代】