第93回選抜高校野球大会(3月19日開幕)に初出場する柴田(宮城)は、走攻守のパワーアップを目指し、補食をアップデートしている。数年前から練習後、おにぎりの補食を取り入れてきたが、「冬の間、選手たちがより多くの量を食べられるように」と20合炊きの炊飯器を2台購入。「1人1合以上」を合言葉に、特大おにぎりを食べて増量を図っている。

練習後に1人1合おにぎり

平日の練習が終わる午後7時半になると、女子マネージャーの長山聖(ひじり)さん(2年)が、炊き上がった約40合のご飯にふりかけを混ぜて補食の準備を始める。片づけが終わった選手から順番に、ラップを両の手のひらに広げて、長山さんから1合分のご飯を受け取り、自分でソフトボール大のおにぎりを作っていくのだ。

おにぎり用に炊いた計400合のご飯をスタンバイする長山マネージャー。ふりかけの味はかつお味、梅しそ味が人気
おにぎり用に炊いた計400合のご飯をスタンバイする長山マネージャー。ふりかけの味はかつお味、梅しそ味が人気

東北の日没は早く、練習が終わる頃は気温が氷点下まで下がる寒さだ。そんな中、「あっつい! あっつい!」と笑いながらおにぎりを握り、ご飯を口に入れていく時間は、身も心も温まるなごやかなひと時。平塚誠監督(48)は「最初は長山さんが1人でおにぎりを握っていたんですが、熱いし、握る時間がもったいないということで、このスタイルになりました。選手が自分たちでおにぎりを握るようになり、笑いや会話も増える。楽しく補食を行っていますよ」と話した。

選手が自ら握るスタイルのおにぎり補食。炊きたてのご飯はアツアツ。心も体も温まります
選手が自ら握るスタイルのおにぎり補食。炊きたてのご飯はアツアツ。心も体も温まります

東北大会準優勝も決勝で大敗

補食を見直したのは、宮城県3位校として7年ぶりに出場した秋の東北大会決勝での大敗がきっかけだ。エース谷木亮太(2年)の好投などで4連勝したが、決勝では仙台育英(宮城)に1-18で敗れ、力の差を感じた。「夏は仙台育英を破って甲子園に行こう!」とチームは結束し、春までの増量を誓ったのだ。

東北大会で大活躍した谷木は、この補食のおかげでここまでで4キロ増の77キロとなった。食への意識が変わり、「家では朝食をパン1枚から、どんぶりご飯に代えました。おかずは目玉焼き2個が定番。補食とプロテインで順調に増量しています」と胸を張る。練習着の太ももの部分がパンパンになり、平塚監督は「補食とトレーニングで谷木はなんだか顔つきまで変わってきましたよ。エースの風格が出てきました」と目を細める。

東北大会ではベンチの盛り上げ役として勝利をけん引したムードメーカーの市川爽選手。補食でパワーアップしレギュラーをつかみ取る
東北大会ではベンチの盛り上げ役として勝利をけん引したムードメーカーの市川爽選手。補食でパワーアップしレギュラーをつかみ取る

一塁駆け抜けタイムが3秒7の俊足1番我妻秀飛(しゅうと、2年)は「体重を4キロ増の68キロまで増やしたい。甲子園では足だけじゃなく、打撃のパワーをもっとつけてアピールしたい」と燃えている。太りにくい体質の選手もいるため、無理のない範囲で2~5キロアップの個人目標を掲げている。

米どころ宮城ならではの差し入れ

  毎日40合も炊くお米は、保護者や、野球部を応援してくれる地域の人からの差し入れによるものだ。米どころ宮城だけに、ブランド米「ひとめぼれ」や「ササニシキ」を贈ってくれる人がいれば、畑でとれた野菜や果物を持ってきてくれる近隣住民もいる。春夏通じて初の甲子園出場とあって、人口約3万8000人の柴田町が町をあげて盛り上がっているのだ。

創部36年目の柴田。甲子園での1勝を目指す(後列左から)齋藤健斗、大和田洸翔、遠藤瑠祐玖、(前列左から)横山隼翔、岩崎翔真、村上太生輔の各選手
創部36年目の柴田。甲子園での1勝を目指す(後列左から)齋藤健斗、大和田洸翔、遠藤瑠祐玖、(前列左から)横山隼翔、岩崎翔真、村上太生輔の各選手

就任11年の平塚監督は「東北大会決勝で大敗したので、選んでいただけるか不安でしたが、学校のキャッチフレーズでもある『夢実現』が一つ果たせました。応援してくださった人、地域の方々にやっと恩返しができる。甲子園では堂々と戦いたいと思います」。地元産の補食でスケールアップした柴田が、聖地で歴史的1勝をつかみ取る。【樫本ゆき】

柴田 1986年(昭61)開校の県立校。普通科と体育科がある。体育科は全国に通用する競技力を目指すために、陸上、柔道、剣道、ウエイトリフティング、体操、水球、野球の7種目で生徒を募集。部員33人。春夏通じて甲子園初出場。主なOBにロッテ小坂誠コーチ、オリックス佐藤優悟外野手ら。所在地は柴田郡柴田町大字本船迫字十八津入7の3