<大相撲初場所>◇千秋楽◇24日◇東京・両国国技館

大栄翔にとって家族への恩返しの初優勝となった。母子家庭で育ち「親孝行」を掲げて進んだプロの世界。女手一つで2人の息子を育てた母高西恵美子さん(58)と、大学ではなく就職の道を選んで弟の学費を工面した兄一直(かずなお)さん(30)に支えられた学生時代だった。

八角理事長(手前)から優勝賜杯を受け取る大栄翔(撮影・鈴木正人)

高西家の大きな分岐点が、大栄翔の高校選びだった。「埼玉栄に行きたい」。母の恵美子さんは、強豪私立校で相撲を続けたいという息子の意思を受け入れつつ、パートタイムで稼ぐ給料だけでは、学費を捻出できないことも分かっていた。「2人で協力しないといけないよね」。言い出したのは長男の一直さんだった。

大栄翔と一直さんは3学年差。中3の弟とともに、高3の一直さんも進路を熟慮していた。県内の商業高校で簿記などの資格を6個取得。担任の教師からは進学を勧められ、奨学金も利用できたが、就職を決断した。恵美子さんが述懐する。

「お兄ちゃんは『勇人(大栄翔)がどうしてもこの高校に行きたいという意思があるなら、僕は大学行かなくていいよ』と。高3の時にコンビニでアルバイトをして『働いてお金をもらう楽しさを覚えたから』って」。

埼玉県朝霞市の朝霞駅に設置されている大栄翔の等身大パネル

一直さんは弟に「何があっても高校は卒業すること」を条件に、埼玉栄高への進学を認めた。「けがで相撲の道が絶たれることもあると思う。でも卒業すれば、人生は何とかなる」。

就職後は大栄翔の学費や遠征費で、足りない分を自身の給料やボーナスから工面。恵美子さんは「お兄ちゃんも気前がいいので。弟につぎ込もうという気持ちじゃないと思うけど、そういう部分ではいい兄弟愛だったのかな」と感謝する。

大栄翔は14年の新十両昇進後、自身の給料で家族を初めて食事に連れて行ったという。一直さんは「おいしいしゃぶしゃぶでした。うれしかったですね」と感慨深げに話した。

埼玉栄高相撲部の山田道紀監督は「親孝行をしろよ」と言って大栄翔をプロに送り出した。同校相撲部の部訓は「感謝の気持ちと思いやり」。埼玉県人初の偉業は、最大の恩返しでもあった。【佐藤礼征】

(2021年1月24日、ニッカンスポーツ・コム掲載)