新型コロナウイルスが流行した今年、アスリ-トは心身ともに厳しい状況に追い込まれた。大きく分けて、1つは目標としていた大会がなくなったことでのモチベ-ション低下。もう1つがコンディション不良、ケガだ。

緊急事態宣言が出された春先、トレーニングの場を失ったアスリートたちも自粛生活を余儀なくされた。その結果、体に何が起きていたのか。順天堂大学医学部スポーツ医学・再生医療講座の齋田良知特任教授に話を聞いた。

順天堂大学医学部スポーツ医学・再生医療講座の齋田良知特任教授

いわきFCのチ-ムドクタ-も務める齋田特任教授は、アスリ-トのコンディショニング維持とパフォ-マンス向上を目的として、プロサッカ-選手の血液デ-タの解析を定期的に行っている。その結果、「今年は、選手の血中ビタミンD値が例年に比べて大幅に低くなっていることを確認した」と明かす。調査結果は次の通りだ。

<調査結果>

日本のプロサッカ-クラブに所属する男子選手(2018年23人、2020年24人)の血中ビタミンD(25-OHD)濃度を比較した。2018年シ-ズン開始の冬、25-OHDは平均29.7(ng/mL)だったが、シ-ズン中の春では36.0に増加。一方の2020年シ-ズンでは、冬が23.8で、緊急事態宣言後の5月では21.8と減少していた。2018年と2020年とも、このクラブが活動している地域の日照時間には差はなかった。

2018年と2020年では入れ替わっている選手も多いため、両シ-ズン共にチ-ムに所属していた7選手のみでも解析した。すると、2018年が26.8(冬)→34.8(春)、2020年が24.9(冬)→21.2(春)と、2020年は冬よりも春の方が低値を示していた。また、同様の調査を10月にも行ったところ、38まで上がっていることが確認された。

自粛で日照時間が大幅に減った

ビタミンDは、カルシウムの吸収を助ける働きを持ち、骨強化に欠かせない栄養素。免疫機能の維持や抗炎症作用、筋肉の合成を助ける働きもあり、アスリ-トに欠かせない栄養素でもある。25-OHD値が30を下回ると、疲労骨折や肉離れなどのケガ発生のリスクが高まるとされ、近年、スポーツの現場では積極的に摂取するよう推奨されている。

ただ、日光に当たることによって体内でも作られるため、年間を通じて日照時間の少ない北欧などに比べると、日本では屋外スポ-ツの選手であれば、紫外線が強まる春先以降は不足することがないと見られていた。

プロのサッカー選手は食意識も高く、日頃からビタミンDを積極的に摂っている者も多いはずだが、冬場は30を下回る選手もいるほど不足しやすい栄養素ではある。今年の春はそれよりも大きく数値が下がったことから、齋田特任教授は「緊急事態宣言が出され、行動制限や外出の自粛となった春先に、日に当たる時間が短くなり、日光からのビタミンD合成が大きく減ったことが要因と考えられる」と結論付けた。「実際、Jリ-グでも、今年は肉離れなどの筋肉系のトラブルが多かったように思える」とその裏に、ビタミンD不足があったと思われると見解を述べた。

ビタミンDを多く含む食品を積極的に

アスリートはもちろん、スポ-ツの指導者はこの事実を認識し、ケガを防ぐために血中ビタミンDのレベルを維持することの重要性について、アスリ-トと共有することが肝心だという。できることなら血液検査(保険適用外)をして、今の自分の体を確認してみるといいだろう。

特に日照時間の短い冬は、ビタミンDを多く含むサケや、イワシなどの青魚、卵(卵黄)、キノコなどを積極的に摂るように心がけることが必要だ。同じ量を摂ったとしても体の大きさや消化吸収に個人差があるため、何をどのくらい食べれば血中濃度が変わるかは明確ではないが、齋田特任教授によると「3週間を目安に、意識して摂り続けると、血中濃度は変わってくる」という。

サプリメントで補うこともできるが、過剰摂取による中毒、高カルシウム血症が起こることが知られている。一方で、食事からの大量摂取や日光の大量暴露からの中毒は報告されていない。

アスリートだけでなくすべての人に当てはまる

また、このコロナ禍でビタミンDの血中濃度が下がっていることは、アスリ-トだけでなく、すべての人々にも当てはまる。アスリートのケガを一般人、特に高齢者の症状に言い換えると、「肉離れ→筋力低下・転倒」「疲労骨折→骨折」「判断力低下→認知機能低下」となる(骨粗しょう症の診療における血中ビタミンD濃度の検査は保険適用で受けられる)。

これからの季節は一層、ビタミンD不足が助長され、骨折や転倒によるケガの発生が高くなることが危惧される。その予防策として、食事からのビタミンD摂取と、可能な範囲での日中屋外での活動が重要となってくる。

【アスレシピ編集部・飯田みさ代】