<忘れられない味(3)>

記者の取材方法に「朝駆け」がある。15~17年の3年間ロッテを担当したが、よくJR海浜幕張駅の改札前に立ち、山室球団社長や林球団本部長(ともに当時)の出勤を待ち受けた。

既におふたりとも退団されているので書かせていただくが、電車の時間は、ほぼ決まっていた。林本部長の方が少し早く、8時49分か57分着。山室社長は9時7分か13分着だった。駅からZOZOマリン横の球団事務所まで歩いて15分ほど。ご一緒させてもらった。球団幹部と1対1になれる貴重な時間だった。

ZOZOマリンスタジアム
ZOZOマリンスタジアム

ロッテ本社やスポンサーを回った時など遅めに来られることもあり、空振りは覚悟の上。とにかく、先に駅で待つしかない。家からは1時間半ほどかかるため、7時過ぎに出ていた。海浜幕張駅に着くと、まずは缶コーヒーで目を覚ました。「絶対、ニュースをものにするぞ」という日は、300円の栄養ドリンク(Vがつく、あれ)に格上げした。そうやって、自らを奮い立たせていた。

難点があった。利尿作用が働く。ロッテファンの方ならご存じかと思うが、同駅の改札外の公衆便所は少し離れている。定刻を過ぎても現れなければ向かってよかったが、もしかしたら、その日だけは遅い電車かも知れない。離れた隙に来るのではないか-。そんなことを考えると、離れるに離れられなかった。

読者の皆さんには全くどうでもいいことだが、結構、切実ではあった。もっとも、勝負ドリンクを飲んで意気込んだからといって、欲しい答えが返ってきた記憶は、ほぼない。むしろ、たわいもない会話をしながら歩いた時の方が、ヒントが埋もれていたように思う。追えば逃げる人間心理を学んだ。

ZOZOマリンにある食堂も思い出す。オフシーズンは事務所の記者室に詰めた。弁当やパンを持参してもよかったが、基本的には球団の人も利用する食堂を使った。社長や本部長が入るタイミングを見計らい、席を立った。偶然を装い、一緒に食事できればしめたもの。「狙った」と思われたらダメだ。他社に勘ぐられたくないし、相手からも警戒される(朝駆けの失敗から学んだこと!)。たまたま同席したようにして、リラックスした中、話を聞きたかった。

もっとも、食堂の方も成功率は低かった。それでも、実りはゼロではなかった。自分の力が足りないだけかも知れないが、取材なんて、効率とはかけ離れたところにあると思っている。どの仕事もそうだろうけど「食」も大事な手段になる。だから、たまに遠征先で仕事を忘れ飲み食いした時は、最高にうまかった。(つづく) 【古川真弥】

(2020年10月3日、ニッカンスポーツ・コム掲載)