東京オリンピック(五輪)出場を目指し、陸上女子100メートル障害の日本記録保持者・寺田明日香(30=パソナグループ)が順調に調整を進めている。「ママアスリート」「7人制ラグビーにも挑戦」「昨年6季ぶりに復帰し、19年ぶりに日本記録(12秒97)を更新したハードラー」…。型破りな言葉で形容される異色のアスリートは、様々な経験を積み、五輪で戦うためにトラックに戻ってきた。

春を呼び込むような温かい笑顔を見せる寺田

4月から始まる対象レースで、参加標準記録12秒84をクリアすることが当面の目標。その上で、6月の日本選手権で3位以内に入れば、五輪出場権を手にすることができる。出るだけで満足はしない。すでに五輪ファイナリストをイメージし、12秒6を見据えたトレーニングに励んでいる。

摂食障害にも陥り、23歳で一度引退

10代で注目され、2009年世界陸上に出場。当時は若さゆえ、「いつも周りから見られていると思っていたし、強いイメージを崩さないようにしなければならないと思っていた」。12年ロンドン五輪出場を逃して落ち込み、心身のバランスを崩して摂食障害にも陥った。23歳で陸上を離れた。

北海道から都内へ移り、結婚して大学(通信制)にも通った。出産、育児を通して心身も回復。夫佐藤峻一さん(36)に背を押されたこともあり、7人制ラグビーに挑戦した。

2019年10月、寺田の世界陸上女子100メートル障害予選をスタンドから観戦した夫峻一さんと娘果緒ちゃん

7人制ラグビー挑戦で受けた衝撃

陸上界では知られた存在だったが、ラグビー界ではそううまくはいかなかった 。直線ならだれよりも早く走れたが、それ以外、特に技術的な部分は経験値で劣った。また、常にチームを優先する団体競技での考え方は、個人競技とは違った。「自分の意見を伝えるため、他人を動かすための言葉の使い方など、1つ1つが勉強になった」。違う世界に触れて、もまれて視野が広くなった。

昨年8月の陸上ナイトゲームズ・ イン福井 女子100m障害で13秒00の日本タイ記録で1着となった寺田

右足首の脱臼骨折などのケガや経験の差を感じて断念したが、五輪に挑む母の姿を娘に見せたいとして陸上に再チャレンジ。2018年12月に練習を再開して19年6月の日本選手権に6年ぶりに出場すると、8月には19年ぶりに13秒00の日本タイ、9月には日本新記録をマーク。一気に記録を伸ばしている。10年ぶりに世界陸上の舞台を踏み、世界のトップアスリートの走りやレース前後の行動を目の当たりにしたことで「五輪決勝での走りをより具体的にイメージできるようになった」とも力強く話した。

昨年9月の富士北麓ワールドトライアルで12秒97の日本記録を更新した寺田

ここまで遠回りしたように見えるが、「すべて必要なことだった」と柔らかい笑みを浮かべる。多くの挫折を乗り越え、夫と娘、そしてサポートしてくれるコーチやスタッフからなる「チームあすか」に支えられ、しなやかさと強さを備えるようになっていた。

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