<岩手のヒミツに潜入(1)>

マリナーズ菊池雄星投手(28=盛岡市出身)にエンゼルス大谷翔平投手(24=奥州市出身)そして大船渡3年・佐々木朗希投手(17=陸前高田市出身)。なぜ岩手県は突然、続々と日本を代表する大物投手を輩出し始めたのか。半年間、佐々木関連の取材を進めるうちに1つの仮説が浮かんだ。甲子園への道のりも決まった佐々木の、岩手のヒミツに潜入する。【取材・構成=金子真仁】

まばたきする大船渡・佐々木は「寝る子は育つ」で育った

早寝する子は育つ-。そんな説が岩手県の、特に教育界に口コミでじわじわ広まったのは約10年前。菊池、大谷、佐々木が登場するタイミングと重なる。

佐々木を指導する大船渡・国保陽平監督(32)も「22時と23時半に成長ホルモンが多く出ると、教員になってからうわさで聞きました」と証言する。

発信源の1人が斎藤重信氏(72)とされる。大船渡や盛岡商で高校サッカーを指導し、全国区の強豪に育てた名将が「疲労回復のために」と早寝を推奨。そこに学説が重なった。陸前高田市の保育士が、ある女性に「子どもの背を伸ばしたいなら21時には寝かせないと」とアドバイスしたのも、この頃だった。

岩手県出身の主なプロ野球選手

助言を実行に移したその女性こそが、佐々木の母陽子さんだ。21時に朗希少年ら兄弟たちを寝かせるため、連日20時過ぎには就寝の準備。当時、小学生の間では土曜21時のテレビドラマ「怪物くん」が人気を博したが、佐々木は夢の中。しっかり睡眠をとり続け、17歳で190センチの長身に。その快速球で“令和の怪物”と呼ばれるほどに成長した。

早寝と高身長に因果関係はあるのか。寝具の老舗・西川株式会社の日本睡眠科学研究所に見解を尋ねた。

「成長ホルモンには骨や筋肉を作る働きがあり、その分泌は就寝後2~3時間程度でピークに達します。成長ホルモン分泌を抑制するホルモン(コルチゾール)は早朝3時ごろから分泌され始め、遅寝だと両者が重なります。早寝だと成長ホルモンが抑制されにくくなると考えられ、成長ホルモン分泌が盛んな思春期前後までは、特に影響は大きいと思われます」

17年2月、当時日本ハムのエンゼルス大谷も早寝生活を明かした。マリナーズ菊池に佐々木を合わせた3人の出現に「なぜ岩手から続々と怪物級投手が?」が叫ばれて久しい。早寝をはじめ、多要素が複合的に絡んだ結果なのだろう。野球界が興味津々のナゾ解きは、この夏再び佐々木が投じるかもしれない160キロとともに、ますます盛り上がりそうだ。

◆岩手県高校サッカー指導の名将・斎藤重信氏 私が子どもの頃は夜8時半に寝てました。すきま風で家に雪が入る。寒いし、寝るのが一番なんです(笑い)。起きるのは5時。父や祖父は5時から散歩していました。早寝早起きはバイオリズムにいい。物事の効率も良くなる。

◆大船渡・国保陽平監督 菊池雄星投手の花巻東が甲子園で準優勝したり、女子サッカーの岩清水選手が活躍したり、岩手の子どもたちの意識が変わったのは間違いなくあると思います。頑張ればこういう風になれるんだと。

◆滝沢いわてリトルシニア・黒沢誠監督(50=女子野球、社会人野球も指導。東北福祉大で阪神矢野監督と同期)「特に岩手沿岸は昔から能力が高い子はいました。でもみんな不良というかガキ大将で、野球をやってなかった。親が何でもしてくれるようになり、グレる子が減った。穏やかな時代はスポーツに向きやすい」

◆DeNA欠端光則スカウト(56=二戸市出身)「なぜ岩手? おれが知りたいよ(笑い)。やっと巡り合わせが来たのかな。経験を経て、吸収し、失敗しても成功につなげる。岩手の子は素直というか素朴だね。いや、結果的に素直になっちゃってるのかな」

◆大船渡東・真下徹監督(57=福岡高で欠端氏と甲子園へ。以後県内各校監督、県高野連理事長など歴任)「昔は本当に根性論だった。今、ようやくきちっと教えられる人が出てきた。40歳前後の研究熱心な指導者が増え県全体のレベルが上がっている」

◆山本郁夫氏(陸前高田市の保育所元所長)「陸前高田市では、特に珍しい幼児教育はしていません。午前中の散歩はそこそこ多いかもしれません。午前11時に昼食で、午後1時から3時は昼寝。保育方針は代々受け継いでいます」

(2019年6月27日、ニッカンスポーツ・コム掲載)