<高校野球練習試合:大船渡6-5由利>◇30日◇水林グリーンスタジアム

大船渡(岩手)の最速163キロ右腕・佐々木朗希投手(3年)が、甲子園へのラストチャンスとなる夏の岩手大会(7月11日開幕)への思いを語った。共鳴するかのように、母も思いを口にした。

岩手県大会に向けて意気込みを語る大船渡・佐々木(撮影・横山健太)
岩手県大会に向けて意気込みを語る大船渡・佐々木(撮影・横山健太)

6月30日は秋田・由利本荘市内での由利(秋田)との練習試合に先発し、3回6奪三振無失点。この日の最速は153キロとギアも上げてきた。家族、仲間、地域、そして自分の夢をかなえる夏が近づく。

佐々木の髪は、少し伸び始めていた。「切りたい」と思い立ったのは前夜午後10時頃。バリカンを器用に操り、慣れた手つきで整えていった。襟足など難しい場所は母陽子さんが仕上げる。大会前の数少ない先発マウンド、記者会見に、6ミリの丸刈り頭で臨んだ。表情はいつもより晴れていた。

大船渡・佐々木朗希(2019年6月30日撮影)
大船渡・佐々木朗希(2019年6月30日撮影)

母と子の夏が近づく。陽子さんはこの日も、太平洋側の大船渡から日本海側の由利本荘へと、東北を横断し応援に駆けつけた。11年の東日本大震災で夫の功太さんを亡くし、女手一つで3兄弟を育てた。「かなり自由に育てました」と笑うが、8年間の道のりの大変さは想像を絶する。

スタンドから190センチの次男朗希を頼もしそうに見つめた。取り囲む報道陣より頭1つ大きい。「スポーツでも何をするにも有利になるかと思って」との思いからの午後9時就寝の早寝教育は、母の想像以上に成長ホルモンを活性化させ今に至る。背は高いが腰は低い。佐々木は「この仲間と一緒に甲子園を目指すのは何よりの励みになった」と高校入学後の日々を振り返った。

練習試合 大船渡対由利 試合後の記念写真で由利の選手たちに囲まれ照れ笑いを浮かべる大船渡・佐々木(撮影・横山健太)
練習試合 大船渡対由利 試合後の記念写真で由利の選手たちに囲まれ照れ笑いを浮かべる大船渡・佐々木(撮影・横山健太)

記者会見をスマートフォンで動画撮影する保護者も多い中、陽子さんは肉眼でその姿を見つめる。次男に共鳴するように、母の思いを話した。「ケガなく、無事に終わってくれればいいなと思います」と簡潔に。数秒の沈黙の後に「でも、欲を言うと」と続けた。

「ケガなく、無事に、そして素晴らしい結果になればいいなと。甲子園に行くのは私たちの、大船渡のみんなの夢だから」。

たくさんの人の夢が詰まった「1」は、まだ母の手元に届いていない。その布が広い背中に縫いつけられた時、いよいよ夏が始まる。「高校日本代表に選ばれて世界一になる」という夢は、ひとまず置いておく。佐々木が今見つめるものはただ1つ。「一緒に頑張ってきた仲間たちを、甲子園に連れていきたい」。その願いに「何が何でも」と付け加えた。甲子園の夢だけは、1ミリたりとも譲るつもりはない。【金子真仁】

▽ヤクルト橿渕スカウトグループデスク 今年に限らず、今までにもなかなかいない。大谷翔平選手に匹敵する。チーム状況を無視してでも(指名に)いきたい投手。 ▽由利・安保勇咲内野手(2年=3回の第2打席で佐々木のチェンジアップに「ウオォ~」と声を出しながら空振り三振)「ストレートだと思ったら、いきなり落ちた。すごく大きくて、スゲエ。見ての通りのピッチャーです」

◆大船渡の日程 来週末に大会前最後の練習試合4試合をこなし、7月11日に岩手大会開幕を迎える。初戦(2回戦)は15日、花巻球場で遠野緑峰と戦う。勝ち進めば強豪の盛岡大付とは準決勝、花巻東とは決勝でぶつかる可能性がある。優勝には10日間で6勝が必要な日程となっている。

(2019年7月1日、ニッカンスポーツ・コム掲載)