数々の金字塔を打ち立てた日本最高の安打製造機が、ユニホームを脱ぐ。日米通算4367安打(日本1278、米国3089)のマリナーズ・イチロー外野手(45)が21日、アスレチックスとの開幕第2戦(東京ドーム)後、引退を発表した。

試合後に引退会見を行うマリナーズ・イチロー(撮影・江口和貴)
試合後に引退会見を行うマリナーズ・イチロー(撮影・江口和貴)

--引退を考えたことは過去にあったか

引退と言うよりも「クビになるんではないかな」はありました。毎日そんな感じでしたね。ニューヨークは特殊な場所です。マリーンズも特殊な場所です。毎日そんなメンタリティーで過ごしていたんです。首になる時はそうなるだろうと思っていたんで。マリナーズ意外に行くという気持ちがなかったというのは大きかったですよね。去年、本当にうれしかったですし。その後5月にゲームが出られなくなる、あの時もそのタイミングでもおかしくないわけですよね。この春に向けて可能性があると伝えられていたので、そこも自分が頑張って来られたと思うんですよね。

--菊池雄星が号泣していたが

号泣中の号泣でしょ。びっくりしましたよ。それを見て笑えてきましたよ。

アスレチックス対マリナーズ 8回裏開始前に交代を告げられベンチに引き揚げたマリナーズ・イチロー(右)にあいさつし涙を流す菊池(撮影・江口和貴)
アスレチックス対マリナーズ 8回裏開始前に交代を告げられベンチに引き揚げたマリナーズ・イチロー(右)にあいさつし涙を流す菊池(撮影・江口和貴)

--アメリカのファンに向けてのコメントをお願いします

19年ですよ? アメリカのファンの方々は最初は厳しかったですよ。最初は日本に帰れってしょっちゅう言われましたよ。結果を残した後の敬意というのは、手のひらを返すというか。行動で表す敬意は迫力があるという印象ですよね。認めてもらった後はすごく近くなると言う印象で、ガッチリ関係ができあがる。シアトルとのファンとはそれができたという勝手な印象ですけど。ニューヨークというのは厳しいところでしたね。でも、結果を残せばすごい。マイアミというのはラテンの文化が強い印象で、圧はそれほどないんですけど、結果を残さないと人はついてこない。それぞれの場所で関係を築けた。アメリカは広いなと。ファンの人の特徴を見て、広いなという印象ですけど。でもやっぱり、最後にシアトルのユニホームを着て、最後に姿をお見せできなくて申し訳ない思いがあります。

--Tシャツのメッセージは

それはいわない方がいいいんだよね。やぼったくなるから。見る側の解釈だから。いちいち説明すると、やぼったくなる。言うと無粋になることは間違いないよね。

--弓子夫人への言葉は

いやぁ…頑張ってくれましたね。一番頑張ってくれたと思います。僕はアメリカで3089本のヒットを打ったんですけど、妻はですね、およそ、ゲーム前ホームの時はおにぎりを食べるんですね。妻が握ってくれたおにぎりを。その数が2800くらいなんですよ。3000行きたかったですね。そこは3000個握らせたかったなと思います。妻もそうですけど、頑張ってくれました。妻にはゆっくりしてほしいですね。それと一弓ですね。わが家の愛犬なんですけど。今年で18歳になろうかという柴犬なんですけど。さすがにおじいちゃんになってきて、毎日フラフラですけど、懸命に生きているんですよね。それを見ていたら俺頑張らないとと思いますよね。ジョークでもなく。あの懸命な姿。まさか最後まで、現役を終える時まで一緒に過ごせると思っていなかったので。一弓の姿は感慨深いですよね。妻と一弓には感謝の思いしかないですよね。

--引退を決めた、打席内の感覚の変化は?

いる? ここで。裏で話そう、後で(笑い)。

--これまでさまざまな決断をしてきた。ポスティング、WBC出場など。考え抜いての一番の決断は何か

これは順番をつけられないですね。それぞれが一番だと思います。ただ、アメリカでプレーするために、今とは違う形のポスティングシステムだったんですけど、自分の思いだけではかなわない。当然、球団からの了承がないとかなわなかった。その時に誰をこちら側、球団にいる誰かを口説かないと行けない。その時に1番に浮かんだのが仰木監督ですね。その何年か前からアメリカでプレーしたいと伝えていたんですけど、仰木監督ならおいしいご飯とお酒を飲ませたら、うまくいくんじゃないかなと。まんまとうまくいきましてね。口説く相手に仰木監督を選んだのは大きかったですね。ダメだダメだと行っていた人が、お酒でこんなに変わってくれるんだと、お酒の力をまざまざと見ましたし、しゃれた人でしたね。仰木監督から学んだモノは、計り知れないですね。

--現役時代に我慢したモノは何か

難しい質問だなぁ…。僕、我慢できないですね。我慢が苦手で楽なモノを重ねているイメージなんですよね。我慢の感覚がないんですけど。とにかく体を動かしたいんで、体を動かすことを我慢しました。自分にとってストレスがないように行動してきました。家では妻が考えて料理を作ってくれますけど、ロードにでれば何でもいいわけですよね。だからむちゃくちゃですよ、ロードの食事は。だから今の趣旨の質問は思い浮かばないですね。

--台湾で人気。台湾のファンにメッセージ

チェンは元気ですかね。チェンはチームメートだったので。1度行ったことがあるんですよ。すごく優しい印象でした。心が優しくて、なんかいいなと思いました。

--メジャーの後輩に託したいモノはあるか

雄星のデビューの日に僕は引退を迎えたのは、なんかいいなぁと思っていて、もうちゃんとやれよという思いですね。短い時間でしたけど、すごくいい子で、やっぱりね、いろんな選手見てきたんですけど、左投手の先発って変わってるんですよ。天才肌というんですかね。アメリカでもそうですけど。こんなにいい子いるのかなという感じですよ。キャンプ地から日本に飛行機で移動するんですけど、ドレスコードがあるんですけど、黒のジャージーでOKと。長旅に配慮して。アリゾナをたつ時はいいけど、日本でジャージーはダメだろと話をしてたんですよね。中はジャージーだけど外はジャケットを着ている感じにしようかなと。で、ユウセイもそうしようと言うんですよ。黒のジャージーのセットアップでバスに乗り込んで、日本について、これはメジャーリーグダメだろと言ってたんですけど、羽田に着いた時にアイツまさかのジャージーでしたからね。これはぶっ飛びました。何があったのか分かりませんけど、大物だなと。スケール感を感じましたね。翔平はケガを治して、スケールは大きいですよ。物理的にもアメリカの選手に劣らない。あのサイズで機敏な動きができるのはいないですからね。世界一の選手にならないといけないんですよ。

--野球の魅力とは

団体競技なんですけど、個人競技なんですよ。それが面白い。個人としても結果を残さないと生きていくことはできない。本来はチームとして勝っていけば、チームのクオリティーは高い。でも決してそうではない。あとは同じ瞬間がないということ。必ずどの瞬間も違う。これは飽きが来ないですよね。

--野球を楽しむためにはどうしたらいい

2001年にアメリカに来てから、19年の野球は全く違う野球になりました。頭を使わなくてもできる野球になりつつあるような。これがどうやって変化していくのか。次の5年、10年、しばらくはこの流れは止まらないと思いますけど。本来野球というのは、頭を使わないと出来ない競技なんですよ。でもそれが違ってきているのは、どうも気持ち悪くて。ベースボールがそうじゃなくなっているのは、危機感を持っている人がいると思うんですよね。日本の野球は頭を使う面白い野球であってほしいと思います。アメリカの野球を追随する必要はないと思うので。アメリカの野球の流れは変わらないと思うので、せめて日本の野球は大切にしなきゃいけないものを大切にしてほしいと思います。

(2019年3月22日、ニッカンスポーツ・コム掲載)