今年も数々の野球人が現役を引退した。コーチ、チームスタッフ、野球評論家など、プロ野球に携わる人もいれば、野球界を離れ、新たな分野に挑戦する人もいる。現役引退後に、飲食店の経営や営業に携わる野球人のセカンドキャリアに潜入した。【取材=久保賢吾】

巨人原監督のサインの横で写真に納まる元巨人の中村さん(撮影・久保賢吾)
巨人原監督のサインの横で写真に納まる元巨人の中村さん(撮影・久保賢吾)

元巨人の中村善之さん(43)は、もう1つの夢だった料理人の夢をかなえた。中村さんは現在、神奈川・横浜市内の「時乃屋」の大将として、九州を中心に選び抜いた食材を使った料理を提供する。

エースを務めた佐賀工3年時、右肘痛に苦しみ、1度は料理人を目指すと決めた。だが、社会人野球の新日鉄八幡に誘われ、セレクションに合格。5年プレーし、97年ドラフト6位で巨人に入団した。

転機は07年に訪れた。00年に現役引退後、7年で巨人の打撃投手も引退。「好きなことをやろう」と料理人を志し、もつ鍋屋、焼き肉屋で計9年半修業した。約1年半は午後2時に出勤し、始発で帰宅。右手には野球時代のマメの代わりに、大きな包丁だこができた。

「つらいこともありましたが、料理が好きでしたから。それに、いつか自分の店を出したいなと」

昨年3月、念願だった「時乃屋」がオープンした。こだわりは出身地(佐賀)でもある九州料理。巨人時代に何度も訪れた宮崎の地鶏、熊本の馬刺し、日向鶏の唐揚げなどのメニューをそろえた。名物は特製しょうゆもつ鍋で、プリプリのもつ、スープは元巨人の前田幸長氏らもうならせる。

客の声に応えるためにメニューの数を増やし、ランチも始めた。「お客様が0だった時もあるし、全く読めないので、飲食店は難しいです。味や接客、少しでも喜んでもらいたいです」。中村さんは今日も、厨房(ちゅうぼう)に立つ。

(2018年11月27日付日刊スポーツ紙面掲載)