<アスリートの摂食障害(2)>

 摂食障害のリスクが一般女性に比べて非常に高いとされる女子アスリート。中でも、陸上長距離選手の有病率は審美系競技、階級制競技と並んで高いことで知られている。

 2000年シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子さんを大学時代に指導した大阪学院大の山内武教授(日本トレーニング指導者協会監事、ランニング学会副会長)は、この傾向が最近は若年化し、中高生にまで及んでいることに警鐘を鳴らした。6月に行われた日本摂食障害協会主催の「世界摂食障害アクションディ2018」で講演し、高校女子長距離走のレベルアップ、高校駅伝の過熱化によって、摂食障害の可能性のある選手が潜在的に数多く存在し、そのリスクが高まっていると指摘した。

なぜランナーは減量をするのか

 ムダな脂肪のない、非常にスリムな体型の長距離ランナーたち。そもそもなぜ彼らは、やせているのか。

 長距離のパフォーマンスを決める要素の1つに、最大酸素摂取量(注)という指標があり、その絶対量以上に1分間に体重1kgあたり取り込むことができる酸素の量(ml/min/kg)、相対値が重要とされている。

 最大酸素摂取量は持久的なトレーニングによって向上するものの、本格的に始めてから1年ほどで大きな伸びが期待できなくなる。そのため、走り込みによって体重を減少させていく。「排気量の大きなトラックより、車体重量の軽いスポーツカーの方が速いのと同じように、軽い方が結果が出やすいから」と山内教授は説明する。

 つまり、同じ量の酸素を取り込むにしても、体重が減れば最大酸素摂取量が高まる。しかも「比較的短期間で劇的にパフォーマンスが上がる」(山内教授)。しかし、走り込みだけでは減量にも限界があるため、食事管理や制限、体重管理を徹底的に実施し、体脂肪の少ない引き締まった体にすることを目指す。これが「軽量化戦略」。長距離選手のパフォーマンスを上げるには、最も即効性のある方法だ。

「世界摂食障害アクションディ2018」で講演する山内武教授

 勝つためには軽量化戦略が不可欠で、体脂肪を限界まで削り取ることが必要だという。女性の「やせ」の定義は体脂肪17.5%以下とされているが、世界レベルの女子長距離ランナーは10%以下が常識となっている。ただ、これは大学、もしくは実業団以上の心身ともに成熟した選手の場合。しかも、照準とするレースに合わせて、オンオフの切り替え、期分けをしっかりする上での話だ。成長期の中高生選手に当てはめてはいけない。

過度のストレスから拒食症、早期引退も

 一方で、高校女子3000メートルのタイムは近年、飛躍的に伸びている。「思春期は体脂肪が増えやすい時期なので、トレーニングだけでなく、食事制限をしていると思います」(山内教授)。その結果、過剰な精神的、身体的ストレスにさらされ、体重(体脂肪)が減少、拒食症などになる危険性も高まってるという。

 実際、中学、高校時代に実績を残し、将来を嘱望されていながら故障や不調に苦しみ、「25歳以降続けられない選手も多い」と山内教授は言う。女子マラソンの低迷の一因も、成長期での過度の減量、エネルギー不足にあるのではないかと見ている。

 10代女子ランナーの軽量化戦略がなぜ、引退年齢の引き下げにつながるのか。後編「女子マラソン界の低迷は10代での過度な減量にある」で詳しく紹介する。

【取材:青木美帆、アスレシピ編集部・飯田みさ代】

(注)有酸素性パワーの指標「最大酸素摂取量(VO2max)」

 1分間に取り入れる酸素の最大量で、絶対値は2000ml~4000ml程度。車に例えるとエンジンの排気量に相当。長距離選手の場合、体重で割った相対値(ml/min/kg)の方が重要で、車でいう車体を極限まで軽くしていく。

<例>最大酸素摂取量の絶対値が3000mlで体重50キロのランナーの場合

体重比の最大摂取量が60.0ml/min/kg→インターハイに出場できるかどうかのレベル
5㎏減量し45㎏になったら66.6ml/min/kg→国内で通用するレベル
10㎏減量し40㎏になったら75.0ml/min/kg→国際的にも通用する一流レベル