鹿児島県立枕崎高硬式野球部は、朝から「ちゃんこ鍋」で栄養補給する。どんぶり飯1杯と、大きな器のちゃんこ1杯。それだけの朝食だが、ちゃんこには、鶏団子とたくさんの野菜が入り、スープはしょうゆ、みそ、キムチ、トンコツ…と同じ日が続かない。選手は毎朝楽しく食べている。

ちゃんこをほおばる枕崎の選手たち。朝から笑顔と会話が増えた

力士のトレーニングからヒント

 朝食ちゃんこ導入のきっかけは、2年前の夏、小薗健一監督(54)と鹿屋市出身の元力士・能勢将寛氏との出会いだった。能勢氏が鹿屋農野球部で指導をしていると聞き、相撲から野球につながるトレーニングがあるかもしれないと、小薗監督が足を運んだ。そこで得たのが、四股(しこ)踏みと食事だった。小薗監督は、能勢氏が経営するちゃんこ店の調理場を見学。鍋に次々と入れられる食材に驚いた。「そこで言われたのです。体を大きくするにはお米を多く食べさせる。それにはちゃんこがいい。鍋にはいろいろな野菜を入れる。スープには栄養がたまるから全部飲ませろ、と」(小薗監督)。

どんぶり飯とちゃんこ。お米が進むよう、ちゃんこは毎日味を変え、栄養がたまったスープは全部飲み干す

この日の材料は豚肉、ミートボール、豆腐、大根、ニンジン、シメジ、エノキ、キャベツ。スープはしょうゆベース

 早速、翌朝から取り組みが始まった。選手たちは、朝5時半起床で四股踏みなどのトレーニング。6時半からの朝食で、ちゃんこが登場した。朝練習直後に室内練習場にテーブルを出しての朝食。その光景がなんだかほほえましい。

朝練習直後に、室内練習場にテーブルを出して朝食のちゃんこを食べる

小薗監督が仕出弁当店経営、味にこだわり

 選手がおいしい料理を提供してもらえるのは、小薗監督が、お弁当・仕出屋を経営しているから。こちらの弁当は県内でも有名で、早朝からスタッフたちが奮闘。ちゃんこも同じスタッフが作っている。そして、何よりビックリしたのがだし! 小薗監督が地元特産の「黒あご(トビウオ)」を使って無添加のだしを開発。他の原料との調合の研究を重ね、昨年商品化にこぎつけた。

小薗監督が作り上げただしは、透明感とのびが自慢

 小薗監督は、「だしがおいしいと(スープも)飲みたくなるでしょう。食事を残すな、ではなく残したくない、と言わせたいんです」と、話す。その狙い通り、選手たちはご飯とちゃんこをキレイに平らげる。空っぽになった鍋を見ながら小薗監督は、「筋肉が太くなったと思いますね。体の中から変えないと。血中の栄養分が絶対に大事なんだと思いますね」と、笑顔で話した。全日練習では、朝、昼、夕食後に1時間から1時間半寝て、脂肪の蓄積を促し、練習で脂肪を燃焼させる。1年で12キロ体が大きくなった選手もいる。

 「毎朝のちゃんこで、食事の量も自然と増え体が大きくなりました。ちゃんこを食べるようになってからは風邪もひきません」と、吉永一樹主将(3年)も効果を実感している。

体と心を育てる「食育」を実践する枕崎の野球部員たち

 おいしいちゃんこ鍋を囲むようになり、朝から笑顔が増え会話も多くなった。体だけではない。心を育てる食事。ここには、「食育」の本来の姿があった。【保坂淑子】

2月は亜大硬式野球部の鹿児島キャンプで炊き出しを行った。左が小薗監督

亜大野球部の合宿めし提供

 小薗健一監督は、弁当・仕出屋「ぶるぺん」を経営する傍ら外部指導者として、枕崎高の野球部に携わっている。鹿児島大を卒業後の89年、鹿児島南の監督に就任(社会科教諭)。公立校ながら夏の県大会準優勝。94年枕崎へ移ると地元支援も受け、秋季九州大会に2度導き、鹿児島県内ではその指導に注目が集まった。02年に中種子高へ異動。その直後、枕崎の寮存続危機を知り、教員を辞して運営を引き受けた。

2月は亜大硬式野球部の鹿児島キャンプで炊き出しを行った。左が小薗監督

 04年5月に「ぶるぺん」を開業。亜大硬式野球部をはじめ、各種スポーツの合宿中のお弁当や炊き出しを行う中、「選手たちが一生懸命に練習に励む姿を見て、もう一度指導したい」と半年後には現場復帰した。09年から本業専念のため再び野球から離れたが、15年7月から枕崎監督に戻った。

亜大キャンプのある日の昼食。海老天うどんと炊き込みご飯

 「少しずつ生徒、部員数が減っている。トーナメント表から名前が消えないように。野球部の活躍で生徒数を増やし枕崎を復活させたい」と、同校への愛情は深い。1963年、鹿児島県生まれ。

◆鹿児島県立枕崎高校 1925年(大14)鹿児島県枕崎実科高等女学校として創立。48年(昭23)学制改革で県立枕崎高等学校設置。98年(平10)県内初の総合学科が設けられた。野球部は昨夏県大会3回戦、甲子園出場なし。同校野球部寮で部員29人が生活する。学校所在地=鹿児島県枕崎市岩崎町3番地。橋口和寛校長。

◆あご入り薩摩のだし 枕崎産の燻(いぶ)しあご節・黒あご節(トビウオ節)と同産かつお本枯節など厳選素材が、極上のうま味を生み出す。

保坂淑子(ほさか・よしこ)

 フリーライター、エディター。「ヨシネーのひとりごと」(ニッカンスポーツ・コム)も連載中。

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(2018年5月10日付日刊スポーツ紙面掲載)