うつ伏せの状態でソリに乗り、時速120キロ以上で氷のコースを頭から滑降するスケルトン。目線が低く、体感速度は時速300キロともいわれる競技で、近い将来の日本のエースとして期待されているのが野口明日香(21=ビッグ・エスくずは)だ。

日本女子スケルトンの将来のエースとして期待されている野口明日香(本人提供)
日本女子スケルトンの将来のエースとして期待されている野口明日香(本人提供)

 競技歴はまだ3年ながら、2022年の北京冬季オリンピックを目指すジュニア強化選手。元陸上競技の短距離選手で、大津商3年の時には100メートル、200メートルで滋賀県3位、リレーでは優勝を経験している。

 特に前半の加速に定評があり、スケルトンに必要な約30メートルのスタートダッシュでは、競技を始めた直後から元五輪選手よりも速いタイムを叩き出していた。スタートダッシュの速さを競う全日本プッシュスケルトン選手権では、17年大会で2位にも入っている。2月に行われる平昌冬季オリンピックの出場は厳しいが、次代のエースとして期待される理由は、スプリンターとしてのポテンシャルと滑走技術の伸びしろにある。

 そんな野口の今シーズンは、躍進の年となった。17年10~12月に参戦した「ノースアメリカズカップ」では、第1・2戦カナダ・ウィスラー大会で両日とも5位入賞を果たし、第3・4戦カナダ・カルガリー大会ではそれぞれ3位、4位に。第5・6戦アメリカ・パークシティ大会では、第5戦で15位に沈んだものの、翌日の第6戦では気持ちを切り替えて7位に入っている。

スタートダッシュなど前半の加速に定評のある野口明日香(本人提供)
スタートダッシュなど前半の加速に定評のある野口明日香(本人提供)

 野口 第1・2戦はバンクーバー五輪と同じコースで難しいことで有名です。昨シーズンは15位と20位でしたが、今シーズンはその苦手なコースで2戦とも5位に入れたことが大きな自信になりました。最終的にシーズン総合4位で終われたのも、あの第1・2戦が大きかったと思います。

母の協力で食生活改善

 飛躍の要因の1つに、食生活の改善があった。

 野口 もともと少し太りやすい性質だったのもありますが、(ジュニアの強化選手になって)海外遠征が増えたことで外食も増え、体重管理が難しくなりました。だから、日本にいる時はできるだけ外食は控えるように食生活を変えました。また大好きな白ご飯の量を少し抑え、代わりにサラダと鶏肉を積極的に摂るようにしました。

 6人家族の大所帯である野口ファミリーでは、食事を作るのは一苦労だ。そんな中で、母文子さんが食生活改善に協力。特に苦手な鶏肉料理の克服には、文子さんの工夫が大きかったという。

 野口 鶏肉が苦手で食べられなかった。でも、強化合宿でタンパク質が豊富な鶏肉を摂るように言われて…。色々と母に作ってもらう中で、克服のきっかけになったのが、ウナギの蒲焼きのタレを使った料理でした。青ジソでササミと梅肉を巻いて焼き、ウナギの蒲焼きのタレで仕上げたもの。克服した後はチキンサラダやササミの塩焼きなど、飽きないように母が工夫してくれて、本当に感謝しかありません。

野口明日香は北京冬季オリンピック出場を目指し、苦手を克服していく(C)レイクスマガジン
野口明日香は北京冬季オリンピック出場を目指し、苦手を克服していく(C)レイクスマガジン

体脂肪ダウン、体が軽くなった

 苦手を克服したことで、体調の変化も表れてきたという。

 野口 他の種類のお肉を食べる時よりも体が軽くなり、疲労回復も早くなりました。体脂肪が減り、ウエートトレーニング後になるべく早いタイミングで食べることで、以前より筋肉のつきがよくなった気がします。おかげでケガが減りました。もちろん、栄養が偏らないように牛肉や豚肉の料理も週に何日か挟むなど、食生活をコントロールしてもらっています。

 まだ21歳。鶏肉を克服したように、1つ1つ苦手をなくして北京冬季オリンピックという晴れ舞台を目指す。

 野口 家族も、会社の方々も、応援してくださる皆さんへの恩返しは、オリンピックに出ることだと思います。しっかり成長していきたい。【白井邦彦】

 ◆野口明日香(のぐち・あすか) 1997年(平成9)1月16日生まれ、滋賀県大津市出身。ビッグ・エスくずは(大阪)に所属。17年度はレイクス・スポーツファンド助成対象者としても活動。大津商3年の冬に陸上・短距離からスケルトンに転身。17年は夏の全日本プッシュスケルトン選手権で2位。10~12月のノースアメリカズカップで総合4位。161センチ、58キロ。