江戸時代の長い鎖国を解いた明治時代、日本の外貨獲得手段の筆頭だったのが群馬県の養蚕生糸だった。それから100年の時を経た平成の世で、群馬県が世界に誇るものは一体何なのか。茨城、栃木に続く、今週の「群馬が世界に誇るもの」。自信を持って紹介するのはズバリ! 特産品のコンニャクと上州和牛だ。

低カロリーなしらたきは海外で大人気

 コンニャクは国内シェアの9割以上を群馬が占める。低カロリーで食物繊維が豊富、アルカリ性のヘルシー食品は、欧米では特に富裕層からダイエット食品としても注目を浴びている。

輸出される群馬県産しらたき
輸出される群馬県産しらたき

 「海外で特に人気なのがしらたき(コンニャク麺)。野菜の上にのせて、サラダとしてドレッシングと一緒に食べている」と説明するのは小金沢定夫さん(67)。ヨーロッパやアメリカ、中近東、ロシアなど約50カ国にコンニャクを輸出する小金沢下仁田蒟蒻株式会社の社長だ。89年の創業直後から海外に展開。06年のサッカーW杯ドイツ大会をきっかけにして、大きく海外へかじを切った。「テレビ観戦をしていたら、現地の日本人学校の生徒が700人もいて驚いた。現地駐在の日本人はもっと多いから、和食の需要は必ずあると見込んだ。それでヨーロッパに進出した」と振り返る。12年には食品管理の国際規格「FSSC22000」を取得。今や年間で250トン、125万食を輸出するグローバル企業に成長している。

零下20度で保管されるコンニャクイモを持つ小金沢下仁田蒟蒻株式会社の小金沢定夫社長
零下20度で保管されるコンニャクイモを持つ小金沢下仁田蒟蒻株式会社の小金沢定夫社長

 コンニャクの海外進出にあたり、問題が3つあったという。コンニャク独特のにおい、固めるための凝固剤として使う食品添加物(石灰)、そしてあく抜きの手間だ。この3つを一気に解決したのが、ホタテなどの貝殻から作った天然凝固剤を使用することだった。においがなく、海外の食品添加剤規定に触れず、あく抜きも不要になった。

 9月上旬、下仁田市内にある工場を訪れ、作りたての輸出用しらたきを口にしてみた。独特のにおいが感じられない。これならば、食習慣のない外国人にも受け入れられると実感した。小金沢社長は、海外需要はもっと伸びると判断し、初の海外現地生産をオランダで行う計画を進めていた。「2020年の東京五輪で、世界中の人が日本や日本食などに注目をした後のタイミングを狙っている。オランダは、ヨーロッパとアフリカのどちらにも近いので都合が良いのです」。

 「made in Japan」のブランド力があるので、輸出品のパッケージも国内向けと同じく日本語だ。「でも、おいしくないものは売れない。これはどこの国でも一緒。逆にいえば安全でおいしいコンニャクを作れば必ず売れる」。

 その言葉からは、群馬が誇るコンニャク作りに徹底的にこだわる職人魂が伝わってきた。

◆群馬県とコンニャク◆
 群馬県では明治時代から養蚕が盛んだったが、戦後は製糸業が一気に衰退した。多くの農家が桑の生産をやめ、コンニャクイモを作ることに転換。近年は他地域の栽培が減少し、16年では栽培面積も収穫量も群馬県が全国で97%のシェアを占めている。

 コンニャクと並んで、海外で注目を浴びているのが上州和牛だ。

薄切り技術&調理法を伝授

 上州和牛とは群馬県内で肥育され、株式会社群馬県食肉卸売市場から出荷される和牛のこと。この市場の施設は3年前、厳しい品質基準を持つEUから、国内で初めて輸出工場としての指定を受けた。一時期はヨーロッパで正規に流通する和牛はほとんどが上州和牛。15年には「食」をテーマにイタリアで行われたミラノ万博に出展。世界に向けて「上州和牛」を大々的にPRした。

上州和牛
上州和牛

 だが、欧米と日本の「食文化の違い」は大きい。日本では、牛肉のあらゆる部位を食べるが、アメリカではステーキとハンバーガーとして食べるだけ。EUに輸出しているのもステーキ用の部位だけだ。日本でなじみ深い、すき焼きやしゃぶしゃぶで使う薄切り肉を食べる習慣がない。

 そこで、〝和牛伝道師〟として講師を派遣しているのが、群馬県内にある全国唯一の食肉に関する公的な学校「全国食肉学校」だ。欧米人らになじみのない薄切りにするカッティング技術を教え、その肉を使った調理法・料理までも伝授する。これまでにEU、アメリカ、カナダやシンガポールなど10カ国以上に派遣してきた。

 同校では、派遣だけでなく、海外からの受け入れも行っている。記者が取材に訪れた日も、カナダの食肉業者が調査に訪れていた。

全国食肉学校にはカナダの食肉業者が調査に訪れていた
全国食肉学校にはカナダの食肉業者が調査に訪れていた

 そもそも、日本で牛肉を食べるようになったのは明治時代の文明開化がきっかけ。欧米人から牛肉の魅力を教えてもらった〝恩返し〟に、今では群馬を発信基地として和牛文化を世界に広めている。

◆畜産物の輸出◆
 16年の牛肉や豚肉、鶏肉などの輸出実績は294億円。うち、牛肉が最大の136億円で46%を占めている。国別輸出量を見ると、1位の香港が659トン、次いでカンボジアが363トン、米国が245トンで続く。輸出拡大に向け、すき焼きなどの日本の食文化とセットにして、バラやモモなどの多様な部位を売り込むことをテーマに掲げている。

(2017年9月23日付日刊スポーツ紙面掲載)